左側がわからない!〜高次脳機能者の声なき声〜言語聴覚士のお仕事
意識がもどり、リハビリ病院に転院してリハビリが続きます。様々な高次脳機能障害を呈しており、その一つがこちらの左半側空間無視です。
これまでの経緯はこちらをご覧ください。高次脳機能障害者の声なき声
ぼくは左の半側空間無視という症状があって、左側が全くわからなかった。視野も左が極端に狭かった。病気に倒れて2ヶ月すぎた頃、おしっこの管もとれた。そして意識がはっきりしだした。まずトイレがひとりでしたかった。しかし、作業療法士の先生から、トイレの許可がなかなか出ない。まだきちんと立てないので危ないからだめだと言われた。立てても、体の使い方がおかしいと言われた。転院してから3ヶ月すぎて、ようやく看護師さんを呼んでトイレに行けるようになった。
左側があまり見えていないので、注意して車椅子を使うようにと、何度も言われた。実際、車イスをこいでいると、頻繁に左の壁によく当たった。注意しているつもりが、なかなか治らなかった。これが左半側空間無視の症状だ。STの先生が机の上におはじきをばらまいて、僕が全部取っていくこともした。何日も続けたが、それもあまり進歩がなかった。今度は、カルタを持ってきた。いつも左の端にかるたを置く。僕は左のカルタが取れなかった。あまりにも腹が立つので、いつも左隅をあらかじめ覚えておくようにした。そのうち、左に置かれたカルタを取れるようになった。それにしても、先生が並べたかるたを全部取れるようになるまでに、相当時間がかかったと思う。
左側に気がつかない、左半側空間無視という障害
ここに書いてある半側空間無視とは、左側の空間があることに気がつかない症状です。見えないのではなくて、気がつかないのです。左側に気がつかないというのは、例えばテーブルの上に左側に並べてあるお皿を見落としたりします。左側においてある鉛筆が探せません。このように左側にあるものが見つからないというだけではなく、左側から話しかけても、左側に人がいても気がつかないことが多いです。さらに身体の中心がどこであるかを感じるのもずれてきます。左から肩をポンポンと叩かれても、左をふり向くのではなく、斜め上のほうに顔を向ける人も多いです。座ったり立ったりするときに、右寄りのナナメの姿勢になります。この症状があると、作文に書いてあるように、トイレにいく、車椅子をこぐなど、活動する範囲が増えるにつれて問題となってきます。ここに書かれているように、「左側に気がつかない」と頭でわかっていても、やはり見落としてしまうのです。
麻痺が改善しても、うまく体を動かせない
さらに、彼は同名反盲という視野障害もあり、視野も狭まって左側が見えなくなっていました。私たちは身の回りの情報のほとんどを視野から得ると言われています。これらが障害された場合、たとえ体に麻痺が改善しても、目的に合わせてうまく体を動かすことができません。高次脳機能障害というのは、立つ、歩く、座るなどの基本的な運動や、ご飯を食べる、服を着るなどの簡単な行為にさえ影響を及ぼすのです。ここで言語聴覚士の先生が、おはじきやカルタを使って、左側に気がつくような訓練を続けているのは、机の上のものが探せるようになるためではなくて、うまく体を使うための訓練なのです。
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