リハビリに伴うリスクは分けあってほしい〜言語聴覚士のお仕事
積極的なリハビリを行うと、改善する可能性は高まりますが、必ずリスクが伴います。それでは、何もしないほうがいいのかというと、改善しないだけでなく、今度は廃用症候群により悪化するリスクがあります。どちらを選択しても、リスクが伴うのです。これらリスクについて話し合い、理解した上で、何を選択するのかを、当事者・家族・医療関係者それぞれが納得できる着地点を決めることが大切だと思います。
嚥下障害のリハビリについて
麻痺や筋力低下によってご飯が食べられなくなる嚥下障害のリハビリは、誤嚥性肺炎という、生命予後に直結することもありうる病気を引き起こすリスクがあります。そこまで重篤でなくても、熱発、抗生物質の投与などなど治療が必要になります。
患者さんの容態を安定させたい主治医の意向と、少しでも口から食べたい本人や家族の意向が一致しないのは、肺炎というリスクを伴うからです。
では、食べなければいいのか?そんなことはありません。飲み込む力が弱くなると、唾液や痰さえ飲み込めなくなります。そうなると、唾液や痰を誤嚥してしまい、肺炎になることもあるのです。一口でもお茶ゼリーを食べている人のほうが、肺炎発症する確率が減るとのデータもあるくらいです。
屋外歩行のリハビリについて
麻痺がある、体力低下が著しいという身体の問題だけでなく、すれ違う車や人に気がつかないなどの高次脳機能障害の人のリハビリでは、屋外を歩いて評価・訓練をすることがあります。当然、麻痺があれば転倒するリスク、体力が低下していた人であれば行きはよいが帰ってくる体力がなくなるリスクがあります。高次脳機能障害の人であれば、突発的な行動にでることもゼロではないし、人にぶつかったり歩道に止めてある自転車にぶつかるリスクがあります。そのほか、インシデントレベルの何かが起こる可能性を考えていたらきりがないくらいです。(→インシデントの意味)
では、屋外歩行なんてリハビリで止めてしまおうとなると、退院後、自宅に帰ったあと、屋外に出て初めてどんな問題が生じるのかがわかる、つまり、どんな問題が生じるのかだれも想定しきれずに、本人や家族だけでぶっつけ本番になってしまいます。これも少し怖いです。家族がいるならまだしも、独居の人も多いのです。
話し合った結果は、書面で残すことは必須。しかし、その前提として、リスクは分け合うものと理解してほしい。
もちろん、病院職員はなるべくインシデントや事故にならないように、最大限の注意を払いますが、100%安全というものはありません。説明して、同意したものについては書面で残しておきますが、なんでもかんでも「病院のせいだ!」という人が増えると、書類がいくら増えようと何もできなくなってしまいます。今や、病院の敷地から少し出たところまでの屋外歩行訓練には「主治医の指示」とカルテに記載することにしている職場もあります。よって、主治医がリスクを回避するタイプであれば歩行訓練は、当然、行えません。たとえ「どんどん日常生活に近いことをしてほしい」というタイプの主治医でも、家族さんが「何かあったら全部先生の責任だ!」というタイプであれば、もちろん主治医も引いてしまいます。
反対に、リスクを伴ってもチャレンジしたいという本人や家族の希望を、何かあったら嫌だという理由だけで医療職が却下するのもよくないと考えます。よく「言語聴覚士さんが、危ないの一点張りで食べさせてくれない」「主治医がやたらと禁食にする」という声を聞きます。評価もしていないのに「外出は危ないかもしれないので、外に出ないでください」なんて言われている人もいます。確かに何もしないと医療者は安心かもしれませんが、本人や家族の気持ちに寄り添っているとは言えません。あなたはここまですよと、チャレンジもせずに線引きされる立場になって考えなくてはいけません。こうした医療者は事なかれ主義である場合と、「全責任が医療者にある。リスク管理はすべて医療者がするもの」と思い込んでいる場合があります。前者はもっとのほかですが、後者に関しては本人や家族、ほかの医療職からの働きかけで変わる可能性もあります。
たった一人のせいではなく、本人、家族、医療者でリスクは分けあってほしいものです。そうしないと、なんちゃってリハビリ、なんちゃって医療になってしまうのではないかと懸念しています。やってもやらなくてもリスクは伴うもの、それもみんなで理解して、分け合いましょう。
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