家族だからこそできるサポート〜脳損傷後の就労を支えるもう一つの視点〜

こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。引き続き、脳損傷後の復職について書いていきます。これまで脳損傷後の働き方、実際の復職事例、障害受容の現実、職場との交渉術についてお話ししてきました。シリーズ最終回の今回は、家族だからこその、就労支援について考えてみたいと思います。
家族の役割は復職だけでなく、その後の就労継続においても非常に重要です。しかし、支援の仕方によっては逆効果になることもあるため、バランスの取り方が大切になってきます。また、家族の身体、精神的な余裕があることも大事です。
経済的安定が与える影響
家族が落ち着いて支援できるかどうかには、経済的安定が大きく影響します。本人の収入が下がっても、配偶者に安定した収入がある場合は、比較的心穏やかに新しい働き方を受け入れやすいかもしれません。一方で、病気をした本人が家計の主要な収入源だった場合、経済的不安定により家族の動揺は大きくなります。配偶者が新たに働き始めたり、働く時間を増やしたりする必要が生じ、同時に本人のケアにも時間を割かなければならないため、家族のストレスは非常に高まります。
障害年金など、経済の助けになる制度は、ぜひとも利用してほしいですし、支援職の方も、これらの情報を積極的に調べて、情報提供してほしいと思っています。なぜか、医療や福祉の業界は、「お金」のことに、積極的でない姿勢の方が多い印象がありますが、お金は大事です!
家族だからこそ見える現実
復職や就労継続のために、私は家族と職場の話し合いの機会があるといいなと思っています。特に理解されにくい「脳疲労」については、ご家庭での様子を伝えることで、職場の理解が深まるからです。職場では目いっぱい頑張っているように見えても、家に帰ったらもうくたくたで寝てしまう。週末は動けない状態になっている。こうした状況は家族しかわからないものです。また、メンタル面の低下や日々の変動なども、一緒に生活している家族だからこそ気づける変化です。これらの情報を適切に職場に伝えることで、より現実的な配慮や調整が可能になります。
心配しすぎることの落とし穴
家族の愛情から生まれる心配も、時として課題となることがあります。
本人を抜きにした相談の問題
家族が心配するあまり、本人を除いて職場や就労支援事業所と話をしてしまうことがあります。しかし、これは本人のプライドを傷つける結果になりかねません。また、本人の希望と家族の希望が、必ずしも一致しないことがあると知っておきましょう。特に、重度の失語症の方でしたら、本人が伝えにくいために、家族が代理で話すことが多いのですが、あくまでも、家族が認知した事実であり、必ずしも本人の意向を反映しているとは限らないことが、少なからずあります。
家族内での役割の変化
障害を持つようになると、家族はいろいろなことを心配するようになります。しかし、本人の意思を尊重し、家族の中での役割をあまり大きく変えないということも大切だと思います。
家族の障害受容という視点
家族の障害受容については、日本ではあまり研究されていません。私が多くの方と話して感じているのは、家族の障害受容と本人の障害の重症度はあまり関係がないように感じています。 比較的軽度で、これまで通りの仕事に戻れた場合でも、家族が受容できていない、つまり満足していない場合があります。常に心配し続けているケースも見られます。また、一方で、重度で日常生活に介助が必要である人や、元の仕事には戻れず福祉就労になった方でも、家族と穏やかに暮らしている人は多くいます。
この違いは何から生まれるのか、私はずっと気になっていました。もちろん発病や受傷前の関係性は大きく影響を及ぼすだろうと予想はしていますが、他にも要因がありそうです。現在、家族の障害受容について研究を進めているところですが、結果が明らかになれば、またお話ししていきたいと思います。
まとめ
家族の支援は、脳損傷後の就労において欠かせない要素です。しかし、支援の仕方によっては本人の自立を妨げることもあります。愛情と心配のバランスを取りながら、本人が新しい働き方で充実した人生を送れるよう、長期的な視点で支えていくことが大切です。もちろん、家族が安心できるような社会のサポートも大事です。
これまで5回にわたってお伝えしてきた内容が、脳損傷後の就労について考える際の参考になれば幸いです。当事者の方も、ご家族の方も、職場の方も、それぞれの立場から理解を深め、より良い働き方を見つけていただければと思います。
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