高次脳機能障害学会での発表に向けて〜その1〜

皆さん、こんにちは。
この度、高次脳機能障害学会に研究発表の演題を応募いたしました。今回のブログでは、どのような内容で発表を予定しているのか、その概要をご紹介させていただきたいと思います。
研究のきっかけ
失語症という言葉をご存知でしょうか。脳の言語を司る部分が損傷することで起こるコミュニケーション障害のことです。失語症になると、本人だけでなく、ご家族も大きな心理的負担を抱えることになります。
これまでの研究では、失語症者のご家族が感じる介護負担について詳しく調べられてきました。特に小林先生の博士論文(2008年)では、家族特有の「コミュニケーション負担感」という概念が明らかにされ、中村先生らの研究(2011年)では、それを測定する尺度も開発されました。
ただ、これらの研究は主に高齢の失語症者を対象としていました。私が日々の臨床で接している就労世代、つまり50歳以下で発症された方のご家族については、まだ十分に研究されていないのが現状です。
若い世代ならではの課題
50歳以下で失語症を発症された方のご家族には、高齢者とは異なる特有の課題があります。例えば、経済的な問題や家族内での役割の大きな変化、将来への不安などです。お子さんがまだ小さかったり、住宅ローンが残っていたり、キャリアの途中だったりと、様々な現実的な問題に直面されます。
今回の研究について
そこで今回、「失語症がある方の同居家族における障害受容の過程」というテーマで研究を行うことにしました。
研究の対象は、発症から3年以上経過し、発症時50歳以下だった失語症者のご家族10名です。配偶者の方5名、親御さんの立場の方5名にお話を伺う予定です。
方法としては、Zoomを使った1時間のインタビューを行います。診断時のお気持ち、失語症に対する考え方の変化、コミュニケーション方法の変化、心境の変化、家族としての価値観の変化、現在の社会参加や交流の様子、受容を支えてくれたものや困難にしたものなどについて、じっくりとお話を聞かせていただきます。
見えてきた傾向
まだ研究途中ですが、興味深い傾向が見えてきています。
家族の障害受容は、失語症の重症度よりも、社会的な交流があるかどうかが重要な要因になっているようです。特に、同じように失語症のご家族を持つ方との交流が、受容過程に大きな影響を与えているようです。
また、家族の立場によっても受容に影響する要因が異なることが分かってきました。親御さんの場合は「親亡き後」への不安が大きく、配偶者の方(特に奥様)は経済的な安定への心配が受容過程に影響しているようです。
これからの支援に向けて
この研究を通じて、失語症の支援は本人の言語機能の回復や社会参加だけでなく、ご家族の心理的支援と、同じ境遇の家族同士の交流機会の提供が重要であることをお伝えしたいと思っています。
まだ分析途中の段階ですが、学会発表を通じて多くの専門家の方々からご意見をいただき、より良い家族支援の方法を考えていきたいと思います。
失語症に関わる皆様、ご家族の皆様にとって、少しでもお役に立てる研究になればと願っています。
学会での発表がうまくいくよう、頑張ります!
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