職場復帰に向けての交渉術〜見えない障害をどう伝えるか〜

こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。引き続き、脳損傷後の復職について書いていきます失語症や高次脳機能障害は、脳損傷による後遺症です。脳卒中、外傷、脳炎など、多くの場合、ある日突然発症します。今日は、これらの障害からの回復プロセスと、職場復帰時にどのように自分の状況を伝えるべきか、実践的なポイントについてお伝えします。
脳機能の回復プロセスを理解する
脳損傷後の回復には、いくつかの段階があります:
- 急性期の自然回復: 入院直後から始まる、脳の損傷自体が回復することによる機能改善
- リハビリテーションによる回復: 適切なリハビリによって促進される機能の向上
- 長期的な回復: 言語や認知機能など、数年かけて緩やかに続く回復過程
- 社会復帰後の回復: 職場復帰により脳に適度な負荷がかかることで、さらなる回復が促される
この回復プロセスを理解することは、職場との交渉においても重要な基盤となります。
職場との効果的な交渉のポイント
1. できることとできないことを明確に伝える
復職時の交渉で最も重要なのは、現時点での自分の能力を正確に伝えることです。
- 具体的な業務ごとに説明する: 「資料作成はできるが、電話対応は難しい」など
- ポジティブな表現を心がける: できないことだけでなく、できることを積極的に伝える
- 必要な配慮を具体的に示す: 「会議は45分までにしてほしい」など
2. 脳の疲労について説明する
脳の疲労は目に見えないため、周囲に理解されにくい障害の一つです。多くの失語症・高次脳機能障害の方の話を伺っていると、この脳疲労が最もわかりにくく、さらに、就労において足を引っ張る要因だと思っています。
- 疲労のサインを伝える: 「言葉が出にくくなったら疲労のサイン」など。表情も乏しくなります。
- 回復に必要な休憩について説明: 「15分の休憩で回復可能」など
- 業務の優先順位づけの重要性: 脳を損傷すると疲れやすいだけでなく、疲れたら回復しにくくなります。なので、なるべく疲れないように業務の優先順位をつけることが大切になります。
3. 定期的な面談の設定を依頼する
脳機能は復職後も回復し続けるため、定期的な評価と業務調整が重要です。
- 3ヶ月ごとの面談を提案: 初めは無理ないよう業務量と内容を簡単なものに設定してもらうのがベストです。その後、能力の変化に合わて定期的な面談をぜひ提案しましょう。
- 上司と人事担当者を交えた面談: 組織的なサポート体制の構築が必要です。なぜなら上司が異動になることがあるからです!
- 客観的な評価指標の提案: 可能であれば具体的な評価方法を一緒に考えてもらえると良いですね。
4. 継続的な障害の説明を行う
ある教員の方の事例が参考になります。彼女は毎年4月になると、自分の障害について同僚だけでなく、保護者や生徒にも説明しています。
- 新しい職員への説明: 新メンバーには特に丁寧な説明が必要
- 定期的な再説明の重要性: 「見えない障害」は忘れられがちなため
- 説明内容の洗練: 私は彼女と毎年この説明内容を一緒に考え、練習しています
時には「もう説明しなくてもいいのでは」と言われることもありますが、彼女はこの定期的な説明が働きやすさにつながっていると実感しています。
障害評価の二つの落とし穴
職場復帰時によく見られる問題点として、次の二つのパターンがあります:
- 能力の過大評価: 本来の能力以上の仕事を任され、疲弊してしまうケース
- 能力の過小評価: 能力を発揮できる仕事が与えられず、不満を感じるケース
どちらも本人のストレスにつながるため、正確な能力評価と適切な業務調整が重要です。
まとめ
脳損傷後の職場復帰では、自分の状態を正確に伝え、必要な配慮を具体的に説明することが成功の鍵となります。また、復職時だけでなく、定期的に自分の状況を伝え直すことも重要です。回復は継続的なプロセスであり、職場との対話も継続的に行うことで、長期的に働きやすい環境を作ることができます。
このような体験談を通じて、脳卒中後の働き方について一緒に考えていきたいと思います。
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