言葉を発する過程について〜言語聴覚士のお仕事〜

言葉を発する過程について〜言語聴覚士のお仕事〜

こちらの記事で「話し言葉を理解する」過程について書きました。今日は「話す」過程についてです。

言葉は整理整頓されて脳内にある

私たちは頭の中に、図書館の本棚のように単語が整頓されて格納されているといわれています。本棚には「食べ物」「スポーツ」「色」「身体部位」などの本棚があります(カテゴリーと言います)
食べ物の本棚の中には、さらに、果物、野菜、魚、肉などの段があり、果物の段には「りんご」「バナナ」「さくらんぼ」など一つづつ言葉が並んでいます。
こうしてきちんと整理されていて、必要な時にささっと取り出して、言葉として発します。
これが脳卒中などにより脳が傷つくと、バラバラと乱れてしまいます。
この状態が失語症の方です。
なので頭の中に単語はあるんだけれども、うまく引っ張り出せないのです。このため、アクセス障害と言われています。

失語症という症状

頭の中でりんごをイメージし、相手に伝えるためには
  1. 本棚から「リンゴ」を引き出します
  2. 「り・ん・ご」の音を並べます
  3. それに合わせて口や舌を動かして「りんご」と発音します

失語症の方には「りんご」を発言しようとして、こんな症状があります。

  • 「リンゴ」と言う言葉自体が思い浮かばない場合これを喚語困難といいます
  • 同じ棚にあるんだけど違う言葉を引っ張ってきた場合、例えば「りんご」を「みかん」いった場合、または違う本棚から「風船」を引っ張りだした場合、これを語性錯語といいます
  • せっかく「リンゴ」言う言葉を引っ張ってきたんだけど、「り・ん・ご」と音を並べ変えるのを間違えてしまった場合、「ごりん」「りらに」等になります。これが音韻性錯語といいます。
  • 「りんご」は引っ張り出せずに、その遠回しな言い方になる場合、例えば、「果物屋さんにあって、ほら、あかい、あの丸い」等、リンゴを説明するための言葉だけがすらすら出る場合、これを迂言といいます

ここまでが「単語」レベルです

次に文章で伝える場合、「りんごをスーパーで買ってきた」を考えてみます。
  1. 「りんご」「スーパー」「買う」」の単語がいえる
  2. それを、文法的な規則に従って並べる( 日本語はやや曖昧ですが、英語は規則的ですよね)
  3. 適切な助詞を入れる
助詞が抜けると「りんご・・スーパー・・買って、買って」これを失文法といいます助詞が間違うと「りんごが、スーパーに買って」となり意味が伝わりません、これを錯文法といいます。
こうなると、単純な会話は聞き手が推測すればある程度わかりますが、少し複雑な会話になると伝わりにくくなります。

話せないことのストレス

自分が伝えたことを言葉にできないもどかしさ、これはどんな軽度の人にでもあります。だから大抵の失語症の方や家族からは「話せるようになって欲しい」と訴えがあります。なので言語聴覚士は「話す」をメインに訓練を組み立てがちです。でも大切なのは、理解です。理解できないことは話せない。これは外国語でも同じですね。

日本は「あ・うん」の文化がまだまだ濃いので、コミュニケーション障害について軽視しがちですが、アイデンティティに関わる重要な分野です。失語症の方や、支える人のストレスに十分配慮してほしいと願います。

 

 

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