機能障害×個人因子×環境因子 ICFがようやく理解できた症例について

機能障害×個人因子×環境因子 ICFがようやく理解できた症例について

私が言語聴覚士の養成校に通っていたころ、担任の先生が大変興奮して、「障害の捉え方が変わった」と話してくれたのが、ICF(国際生活機能分類)

当時、子供を保育園に預けて通学していた私は、当事者会なるものも、勉強会に行く余裕もなく、もちろん臨床を知らなかった。つまり、ただ一人として当事者や家族を、リアルに知らなった。だから、個人因子や環境因子といった、個々の人がもつその背景が全くイメージできず、ちんぷんかんぷんであった。

それまでのモデルであるICIDH(国際障害分類)の方がよくわかった。こういう障害があるから、生活に障害が生じ、結果、社会的に不利になる、この一歩通行の方がイメージができたのだ。その後、言語聴覚士として仕事を始めて、リハビリテーション計画を書いたり、カンファレンスなどでも、「ICIDHの方が分かりやすいよね、現実的だよね」と言っていた。医療の現場では、未だに、「できないこと」にフォーカスする傾向が強い。

そんな私は、言語聴覚士になって11年目、当時40代後半のある男性を担当して、この概念がようやく腑に落ちた。彼は、私が勤務していたリハビリテーション病院に入院してきた。麻痺はなかったが、重度の感覚性失語と注意、記憶、遂行機能といった高次脳機能障害のために、身のまわりの事さえ見守りや声かけが必要であった。6か月ほど回復期病院でリハビリテーションを実施しても、到底仕事には戻れないだろうなというのが、初回の評価であった。しかし、入院中に頻繁に訪れる職場の上司、協力的な家族、さらにひたむきにリハに励む本人を見て、この ICF モデルにある個人要因、環境因子が強みとして浮き彫りになったのだ。この職場なら、この方法であれば、などなどたくさんの条件付きで復職の道筋が想定でき、そのプランにそって、たくさんの人と連携していき、長期フォローののち復職していったのだ。

 失語症、高次脳機能障害は、復職率は非常に低い。私たちの生活においてコミュニケーションがいかに大事かということを痛感するところであるが、だからといって必ずしも復職できないわけではなく、個人因子・環境因子というものがいかに大事であるか、今いちど考えたい。せめて支援職がはじめから、機能障害だけを見て、復職が無理だということがないように、 ICF の考えにもう一度たち戻りたいと思う 。

 もう一つ、医療や福祉の長期支援の重要性がある。おそらく回復期リハビリテーションを退院と同時に、リハビリテーションが終了となっていたら、復職は難しかったであろう。長期の外来継続、ジョブコーチの利用など、手厚い支援があったから復職できたともいえるが、反対に、数年間、手厚く支援を得られたら、復職できる人がまだまだいるということではないだろうか。

今、オンラインで言語リハを提供する事業を行っている。長期で支援がしたいと思ったから起業したのですが、原点は、この患者さんだったかもしれない。

私の活動をご紹介

 

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