復職の前に、現場にいけたらいいのに~高次脳機能障害・失語症の当事者インタビューより
ルポライターの鈴木大介さんと、高次脳機能障害・失語症の方を対象にインタビューをして、冊子を毎月発行しています→「脳に何かがあったとき」
今回は、大手居酒屋チェーン店で働く槇田さん、昨日の続きです。
病院・生活・就労それぞれ環境が違いすぎる
病院と生活では環境が全く違います。「日常生活」や「社会生活」への適応が困難になる高次脳機能障害・失語症の人たちが、病院にいたら生活での困りごとが実感できないのは当たり前です。麻痺と違って、軽度であれば、入院中は全く問題がないことも少なくありません。なので、私は早期に退院して、生活をしながら、外来でリハができるのが理想ではないかと考えています。生活でのこまりごとが明らかになることで、当事者はリハの必要性も理解できます。リハ職も、病院ではわからなかったこまりごとがわかり、どのようなリハビリprogramを提供したらよいのかよくわかります。
しかし、それでもやはり復職に向けては不十分なのだと改めて思いました。槇田さんは、回復期病院で、目覚めた後(本人談)は、自らのめり込むようにリハビリを行ったそうです。入院時には中等度であった高次脳機能障害も、退院する前には「少し様子をみてから復帰できるね」と言われるレベルにまで回復。退院後の自宅生活では、何も困らなかったし、電話もできる、LINEなどを使った同僚とのコミュニケーションも問題がなく、スマホも使いこなしていました。そろそろ復職をしようと考え始めたときに、飲食店の業務を考えると、体力が足りないと思い、スポーツジムに通い始めます。店内は騒々しいので、言語リハも、カフェなど周囲がうるさい場所で実施して、復職に備えました。それでもやはり、現場に戻ると想定外のことばかりだったそうです。
盛り付けた料理を運んだり、飲料を作ったりなどは、複雑な動作やスピードが要求されます。お客さん、店員とは、大きな声で、体を動きながら話し続けなくてはいけません。次から次へと、店内の状況が変わるので、それに対応しなくてはいけない。これらはすべて現場に入らなくては経験ができないことです。
復職後の困りごとを想定するにも限度がある
槇田さんだけでなく、ここまでやっても職場では難しかったのか・・という経験は、時々あります。
例えば
- 麻痺もなく、梯子の昇り降りもスムーズにでき、退院後は子どもの運動会でも問題なかったのに、高いところの作業ができないと言っていたとび職の人
- 資料作成やプレゼンができるようになったけど、プレゼンのあとの質疑応答で頭が回らないと言っていた営業マン
- ごく軽度の構音障害まで回復したけれども、研修の講師をすると後半口がもつれるといっていた講師業の人
外来リハではなく、本当はジョブコーチの制度が使えたらいいのだろうなと思います。
病院と生活がかけ離れている、生活と職場もかけ離れている、当事者だけでなく、支援者も、どんなこまりごとが発生するのか想定するのは、いくら想像力を駆使しても、なかなか難しいのではないでしょうか。
かといって、むやみに「復職できない」という判断にならないように気を付けたいところです。「復職は厳しいだろうな」と思っていても、なんとかクリアした人もたくさんいるわけですから。
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