「言葉が出てこない」その背景にある“アクセス”の問題 ― 失語症の本当の理解

「言葉が出てこない」その背景にある“アクセス”の問題 ― 失語症の本当の理解

こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。
私は2019年から、オンラインで言語リハビリ(言語療法)を行っています。「言いたいことがうまく言葉にならない」「頭の中では分かっているのに、口から出てこない」そんなつらさを感じている方、またその様子を見守るご家族はいませんか?

今日は、失語症について多くの方が抱きやすい誤解をほどきながら、「言葉が出にくくなる理由」と「回復への希望」についてお話しします。

🧠 失語症とは? ― 言葉を扱う“脳の仕組み”の障害

失語症(しつごしょう)は、脳の「言葉を扱う部分(言語野)」が損傷することで起こる後遺症です。
右利きの方の多く、左利きの方でも7割ほどは左脳に言語野があります。ここがダメージを受けると、「話す・聞く・読む・書く」といったすべての言葉の力に影響が出ます。

つまり、「言葉が出ない」だけでなく、

  • 相手の話を理解しづらい

  • 読むときに意味がとりにくい

  • 文字を書こうとしても出てこない
    など、いろいろな形で“ことばの困りごと”が現れます。

💬 軽度の失語症で残る「話すことの難しさ」

入院やリハビリを経て、軽度の失語症まで回復された方の多くが、次にぶつかる壁があります。
それは「日常会話で、言葉が出てこない」ことです。

病院でのリハビリ(たとえばカードを見て名前を言う課題)ではうまく言えても、実際の会話では

  • 適切な言葉が浮かばない

  • 話の途中で止まってしまう

  • 思っていることをそのまま伝えられない
    といった場面が多く見られます。

読む・聞く・書くにも少し困難が残る方はいますが、やはり「話す」ことに一番苦労する方が多いのです。
では、なぜ話すことがとても難しいのでしょうか?

⏱ なぜ「話すこと」が特に難しいのか

日常生活のコミュニケーションは、ほとんどが「聞く」と「話す」でできています。
そして会話には「スピード」が求められます。

書くときは、自分のペースで時間をかけられます。
でも、話すときは相手のテンポに合わせ、すぐに言葉を選んで口にしなければなりません。

たとえば、思い出したい言葉がすぐ出てこないうちに、相手が次の話題に進んでしまう…
そんな場面で焦りや悲しさを感じる方も多いのです。

🌈 「失語症=言葉を失う」ではない― 言葉は頭の中に“ある”けれど、届きにくくなっているだけ

ここで大切なことをお伝えしたいと思います。

失語症は、「言葉がなくなってしまう病気」ではありません。
言葉は頭の中にちゃんと残っています。
ただ、それを取り出すための“通り道”がうまく働かなくなっている状態なのです。

このように、言葉が思い出せない・出てこない状態を「アクセス障害」と言います。

たとえるなら、スマートフォンの中に写真はあるのに、アプリが一時的に開けなくなっているようなものです。
データ(=言葉)は残っています。大切なのは「アクセスの仕方を回復させること」なのです。

🗣 アクセスを回復させるためにできること

アクセス障害は、繰り返しの刺激で回復が期待できます。
聞く(インプット)と話す(アウトプット)を何度もくり返すことで、脳の回路が再びつながっていくのです。

言葉を「取り戻す」のではなく、「つながりを取り戻す」――。
それが、言語聴覚士が行うリハビリ(言語療法)の目的です。

たとえ少しずつでも、練習を続けることで確実に変化は見られます。

🌱 まとめ ― 言葉への“アクセス”を取り戻す希望

失語症は、決して絶望的な状態ではありません。
言葉は頭の中に残っています。適切なリハビリを通じて、アクセスの回復は少しずつ進んでいきます。

私がオンラインで言語療法を続けているのは、この「アクセス障害の改善」をもっと多くの方に届けたいと思っているからです。

焦らず、あきらめず。
あなたの中にある“言葉”は、必ずもう一度、つながります。

次回は、多くの方が悩まれる「雑談」の難しさについて、新しい視点からお話しします。

私の活動

 

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