【事例から学ぶ】高次脳機能障害者の奮闘と再起

【事例から学ぶ】高次脳機能障害者の奮闘と再起

今回は障害受容と社会復帰の難しさ、その過程ついて、事例を紹介しながら言語聴覚士の視点でお伝えしていきます。

生活期事例「中途半端に生かしやがって」から「障害は個性と思う」に至るまで

今回は40代の男性のケースです。
この方は、3代目の社長として頑張っていた時期に脳出血で倒れました。
急な手術で一命を取り留めましたが、左上下肢の麻痺、高次脳機能障害、そしててんかんが残りました。
1年間のリハビリ入院を経て、杖を使った歩行が可能になりましたが、家族とのコミュニケーションに遅れをとってしまいます。

「何がなんでも仕事に戻る」とリハビリを続け復職を目指しますが、てんかん発作を繰り返し、3年後に主治医から「仕事はあきらめてほしい」と告げられます。
この頃から、「中途半端に生かしやがって。死んでいたらよかった」という感情を家族にぶつけるようになり、うつ病と診断。
精神科デイサービスに通いましたが、人間関係の構築が難しく中断しました。

その後、高次脳機能障害者向けの就労支援機関に通い始めます。
しかし、「歩きたい」との思いが強く車椅子を拒否し、杖で通っていた際に膝を痛め、活動が一時中断します。
彼の口からは「このまま生きていても仕方がない」という言葉が増え、家族も「何を楽しみに生きているのか」と戸惑います。さらに、妻への依存が増え、妻が外出すると暴言を吐く、執拗にメールを送るなどが増えました。

発症から7年目に、当事者の気持ちを医療者向けに発表するよう勧められ、社会参加が進みました。車椅子の練習を重ね、現在は「高次脳機能障害を広めたい」という思いで活動し、「障害は個性です」と発言しています。

多くの人が生涯現役で働き、元気で亡くなりたいと思うでしょう。しかし、高次脳機能障害の復職率は約30%であり、多くの人が復職を諦めざるを得ません。
本人や家族が元の生活に戻りたい、治りたいとだけ望む場合、今できないことやマイナスの面ばかりに目が向き、今できることが見えなくなってしまいます。

「リハビリ人生」と言われるリハビリだけが目的の人生になるだけでなく、無理をして病状を悪化させ、心の問題を引き起こす可能性も考えられます。
「できない」ことだけを伝えるのではなく、できること、プラスの面に目を向け、残存能力を引き出すことは、言語聴覚士を含む医療従事者にとって非常に重要な役割です。

また、この事例のように、本人だけでなく家族が不利益を被ることも考える必要があります。
医療従事者は障害者本人だけでなく、家族を含めて最善の利益を検討する必要があります。
そして、社会参加の重要性にも注目すべきです。
生きる希望を失った方に対して、機能回復だけでなく、形は変わっても再び社会に戻ることが、人生を前向きに考え直すきっかけとなるかもしれません。

 

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