周囲との会話についていけない〜高次脳機能障害者の声なき声〜
言葉がわからないわけでもない、話ができないわけでもない。でも、人と会話ができない、テレビを見ても何がおこっているのかわからない・・高次脳機能障害者の声なき声で、書き続けている患者さんの手記からです。
情報の処理速度が遅いんです。しゃべるときってみんな早いでしょ。だから相手が話している内容が理解しにくい。早口でいろいろ言われたら、いくら聞こうと努力していても全くわからなくなる。「ちょっと待ってくれよ」って気持ちですよ。一生懸命、何を話しているんかなと聞き取ろうとして、すごく集中するんです。だから、頭がすぐに疲れます。途中から、聴けてません。
サッカーや野球や漫才を見ても、いったい何が起こってるのかがわからない。野球はスイングをするのが全然見えなかったし、ボールを追えなかった。画面が切り替わるし。じーっと見ていたのですが。それに解説を聞き取ることもできなかった。早いじゃないですか、スピードが。
情報の処理速度とは?
私が学生のときに理解が難しかったのが「注意機能」という脳の機能です。記憶ならわかるのですが、注意って??という感じでした。しかし、この注意機能はすべての認知や日常生活の基盤なのです。
例えばお仕事をするとき
- 1時間以上も仕事に集中できる(注意の持続性)
- 仕事を中断されても、またすぐに元の仕事に集中できる(注意の転換)
- 話しかけられても、会話に応対しながらも、自分の仕事を続けることができる(注意の分配)
- 雑談の中でも、不要は音はシャットアウトして自分に必要な情報だけを聞き分ける(注意の選択性)
情報処理速度とは、例えば会話であれば「耳に入ってきた言語を理解し、それに対して自分の思考をまとめ、相手に言語で表出する」といった言語情報を処理する、車の運転であれば「あちこちに視線を動かして周囲を見渡し、その情報をもとに判断して安全にハンドルを操作する」という、入っていた情報を脳で理解する(インプット)、脳で判断して適切な行動に移す(アウトプット)という一連の流れに要する速度です。上記にあげた注意機能を基盤とてして成り立つという説もあれば、これら4つと並列して注意機能の一つとしてカウントとしている説もあります。
情報処理速度が低下すると、複数の人との会話、テレビやラジオなどたくさんの言葉が溢れているものを「見て、聞いて」理解することが難しくなります。私はよくこの状態を説明するときに「寝起きの状態と同じですよ。頭がまだ回転していないっていう時がありますよね」と言います。想像できますよね?
高次脳機能障害だけでなく、認知症やパーキンソン病でもこうした処理速度の低下が見られます。
会話では、このように工夫してください
みんなと同じ場所にいて、ひとりだけ会話についていけないって、辛いことですよね。少しスピードを遅くして、なるべく短く(情報の量を減らす)話しかける工夫をしてください。あと、脳が疲れますから、会話の時間も短めに。医療職の方、最近は患者さん、家族、主治医、看護師、ケアマネさんなど、当事者交えて多職種でカンファレンスすることが増えましたよね。当事者が同席はとてもよいことですが、会話についてきているのか少し気をくばって下さい。あれもこれも、話し合いすることが多いと思いますが、当事者一人ぽつんと取り残されている光景をよく見ます。私もついつい自分のペースで話しがちで、患者さんの表情を見てはっと気がつくことが多いです。
日常生活でできる、処理速度のリハビリ
- いわずとしれた100ます計算のようにタイムを計って行う単純計算
- 書き取り
軽度の人であれば
- 複数のお料理を同時にする
- スピードを競うゲーム(スマホよりも画面が大きいものがよい)
- または卓球などのスポーツ(予測できないものに対して身体を瞬時に動かす)
- ニュースを聞きながら、要点のメモをとる
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