脳損傷後の復職事例〜「元に戻る」より「新しい働き方」を見つけた方々〜

こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。引き続き、脳卒中後の復職について書いていきます。本日は、当事者インタビュー冊子「脳に何かがあったとき」から、紹介したいと思います。
脳卒中や頭部外傷などの脳損傷をした人の復職について考える際、多くの方が「元の仕事に戻りたい」と考えられると思います。しかし、実際に復職を果たした方々にお話を伺うと、必ずしもそうではないことがわかりました。今回は、配置転換により新しい働き方を見つけた二つの事例をご紹介します。
事例1:保健師として働いていた女性の場合
復職への道のり
彼女は公務員として保健師として働いていましたが、脳卒中により麻痺と失語症が残りました。復職に向けて1年半という長期間のリハビリ出勤を行いました。この期間は給与が支給されない状態での「お試し期間」として、職場に通い続けました。お試しなので、結果が出るまで緊張する日々だったと言います。
働き方の変化
リハビリ出勤を通じて、これまでの業務を同じレベルで継続することは困難であることが明らかになり、最終的に配置転換という形で復職を果たしました。
- 以前: 地域の健康活動を担当する保健師として介護保険課で勤務
- 現在: 同じ介護保険課での勤務だが、よりゆったりとしたペースの業務
- サポート体制: アルバイトスタッフが補佐として配置
現在の状況
配置転換後も同じ分野で働き続けており、ご本人の専門性を活かしながら無理のない範囲で社会貢献を続けています。麻痺に対しては、移動がスムーズにできるよう環境整備を提案しました。
事例2:建築関係で働いていた男性の場合
発症の背景
建築業界で非常にハードなスケジュールをこなしていた男性が、過労により脳梗塞を発症しました。当時の生活は、あきらかにオーバーワーク、ストレスで飲酒や食事も増えメタボリックシンドロームそのものだったと言います。
復職と配置転換
同じ会社内での配置転換により復職を果たしました。インタビューでは「今の部署に移って非常に幸せ。2度と前の業務に戻りたくない」という言葉が印象的でした。
周囲から見た変化
奥様からは「性格が穏やかになった」という話がありました。これは脳損傷による性格変化というよりも、ストレスが大幅に軽減されたことが大きな要因のようでした。
二人に共通していた意外な気づき
インタビューの中で最も印象的だったのは、お二人とも「今の業務に満足している」とおっしゃっていたことでした。特に建築関係の男性の「本当に戻りたくない」という発言は、私自身の先入観を覆すものでした。それまで私は、多くの方が元の仕事に戻ることを望んでいると思い込んでいましたが、この方の体験談から「元の仕事に戻ることが良い」ではなく、その方にとって「最適な働き方」を一緒に見つけることが大事だと知りました。
事例から学べること
完全に元の仕事に戻ることだけが復職ではありません。配置転換や業務内容の調整も、立派な復職の形です。
お二人とも発病後はショックを受けただろうし、なかなかリハビリが進まない、周囲の理解が乏しいなど、悔しい思いをされましたが、長期的に見ると「新しい働き方の方が良かった」という結論に至っています。特に男性の事例では、職場でのストレス軽減が健康面だけでなく、性格面にも良い影響を与えていました。
女性の事例では、アルバイトスタッフによる補佐体制や、環境整備など、職場の対応の重要性がわかります。上司によると「どうしても帰りたいという彼女の強い意志があった」のがポイントだったとか。どうしても帰りたい=今までの業務ではなく、「できる範囲での仕事に戻る」が良かったかと思います。
配置転換や業務内容の変更が、結果的により良い人生につながることもあります。短期的な感情や社会的なプレッシャーに惑わされず、長期的な視点で最適な選択を支援していくことの重要性を、改めて実感しています。
このような体験談を通じて、脳卒中後の働き方について一緒に考えていきたいと思います。皆さんの体験やご質問受け付けています。フォームからご記入ください
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