僕は文字が読めないのか!〜高次脳機能障害者の声なき声
前回までは身体についての話でした。左半身は重度の麻痺でしたが、身体だけでなく高次脳機能障害も重度でした。
これまでの記事はこちらをご覧ください高次脳機能障害者の声なき声
何とかベットの上にテーブルをつけて、言語聴覚士の先生の訓練が始まった。プリント問題を置かれた。1問目は忘れもしない「2 +2」の小学生ができるような問題が全くわからなかった。こんな簡単な問題ができないわけないと思った。頭がパニックになった。次にトランプを4枚並べて神経衰弱を解かされた。それも全くできなかった。覚えられなかった。一体どうなっているんだろう?と、わけがわからなかった。あとに嫁から聞いたのだが、言語訓練の時間に、いつも「今日は何年何月何日ですか?今は何時ですか」と聞かれていて、ほとんど間違っていたらしい。
ぼくは新聞が好きだったので嫁に買ってきてもらった。しかしここでも僕はびっくりした。一面の文字が見えない、それどころか大きな見出しさえ全く読めなかった。ものすごくショックだった。僕は小学生のころから新聞が好きで、毎日読んでいた。中学生になる頃は、政治経済に興味があって読んでいた。もう一生新聞も読めないのかと非常につらかった。
結果的にわかったのだが、左目がほとんど見えない状態だったのだ。
このブログを書くときに、個人情報なので病巣は書かないほうがいいかと思いました。しかし書かなければ症状が詳しくお伝えできないことに気がつきました。患者さん家族さんにお伺いしたところ、隠すことは何もないのでぜひ書いてくださいとのことでした。
彼は右脳の視床という場所が出血しました。視床は様々な感覚の中継地点であるため、この部位が損傷すると、感覚情報が歪んで大脳皮質に送られます。失認といってものの形が分かりにくくなることもあります。ここで言う文字が見えなかったというのは、文字の形が分かりにくかったということです。視力低下、視野の欠損も起ります。さらに次回に書きますが、この患者さんは左側の空間が全くわからなくなる左半側空間無視という症状も出ていました。なので、目の前にあるものの左側に気がつかない、見えていないのです。
視床出血については、こちら出血部位別に見る脳出血(1)視床出血をご参照ください。
私たちは、網膜が取らえた情報すべてを、大脳皮質で認知しているわけではありません。網膜に情報が入っていても、これまでと違うように認知され、文字がわからない、ものの形がわからない、半分が欠けて見える、左が見えない(気がつかない)症状を呈していたのです。
「2+2がわからない」2の数字が分からなかったのか、数字の意味・概念がわからなかったのか、この情報だけからでは私にははっきりとわかりませんが、簡単な問題だとわかったということであれば数字の形は分かっていたのではないかと思います。だけど、数字や符号の意味がわからなくなっていたのだろうと思います。
他にも、日時がわからない、あたらしい出来事が記憶できないなど、知的な面において様々な後遺症がでていることがわかります。ただ、非常に混乱したという感情、情動を伴ったことは記憶しています。
のちに、彼が退院するときに、担当した言語聴覚士さんが「これまでみたことがないくらい重度だった。どうしたらいいか、数日間、悩んだ」とおっしゃったそうです。このセラピストの方はとても熱心な人で、いまだに連絡を取り合っているそうです。彼はいつも感謝の言葉をのべています。言語聴覚士の方も、このあと、相当、厳しい訓練を実施していきます。
LEAVE A REPLY