栄養摂取方法と退院先〜口から食べられなくなったらどうしますか?

栄養摂取方法と退院先〜口から食べられなくなったらどうしますか?

私が今回、胃瘻や経鼻経管栄養法について記事を書いているのは、医療現場にいると、本人だけでなく、家族さんからも「こんなはずではなかった」と言う声を聞くからです。胃瘻についての記事を書いたあと、数名のお友達から「胃瘻をやめることができるなんて知らなかった」「こんなことならば胃瘻を作ればよかった」または「胃瘻にすれば全てを解決すると思っていたのにそうではなかった。理由がわかった」など様々な意見をいただきました。医療や福祉の現場では説明の必要性は感じでいますが、十分な時間がないのが現実です。個人的な見解ではありますが、少しでも情報を提供できたらと思って書いてみます。

高齢になると、ちょっとしたことでご飯が食べられなくなる場合がある

高齢になると足の骨を折った、大きな手術をしたなどで、数日寝たきりになると、一気に飲み込む力が弱くなり、ご飯が食べれなくなることがよくあります。脳卒中など頭の病気で入院したわけではないのに、なぜご飯が食べられないのかと戸惑う家族さんは非常に多く、ここから医療不信が生じることも多々あります。
私たちとしては、栄養状態を改善することが、術後の回復や合併症の予防となり最終的には良い結果になると考え、経鼻経管栄養法(場合によっては胃瘻)などを説明します。しかし、一度これらの手段を選択すると、以後ずっと食べられなくなるのではないか、食べさせてくれないのではないかと不安を訴える家族さんは非常に多いです。多くの患者さんの場合、食べられる見込みがあれば、経鼻経管栄養や胃瘻を併用しながら、食べる練習を行います。そして、元気になったら口からだけ食べて退院となるのです。状態が悪い時に、何がなんでも「口から」だけにこだわって、痩せた状態で筋力も低下して、誤嚥性肺炎(食べる力が低下して、食べ物が肺に入ってしまう)になることを避けたいというのが、医療側の気持ちです。

退院先が変更になることもあります

胃瘻や経鼻経管栄養法を選択すると、看護師が不在の施設などでは受け入れ不可ということがあります。この場合、誤嚥や低栄養のリスクがあって、口からだけで食べることを選択して施設に帰るのか(看取りの場合を含みます)、または胃瘻や経鼻経管栄養を受け入れてくれる施設を探すのか、選択することになります。
高齢なので「何もしないで、慣れた場所に帰したい」という家族さんの希望は増えています。受け入れ先が承諾してもらえたら、私たち病院側は、最も安全な食形態、介助方法、摂取量を評価して、退院時にお伝えすることになります。

ご自宅の場合、体制を整えてくれる方がいるかがポイントです

訪問看護師、往診の先生の理解が得られると、胃瘻、または経鼻経管のままご自宅に戻ることも可能です。口から食べられなくなる=家に帰れないではありません。家族さまには、器具の取り扱い、チューブが抜けた場合や途中で抜いた場合などどうしたらいいのかを説明し、場合によっては練習をしてもらって退院となります。特に胃瘻は管理が簡易なので、ご自宅生活に向いています。麻痺がなくて知的にも保たれている人の場合、ご自身で管理される場合もあります。

元気な時から、家族を含めて考えてほしい

私のように医療の現場で長い間働いてると、食べられなくなる状態は日常茶飯事ですが、一般の方にとってはこれまで聞いたことも考えたこともないことです。戸惑うのも当たり前で、そんな時に「こういう方法がありますよ、どうするか選んでください」と言われても、充分理解することは難しく、さらに決断するまでに時間がかかります。しかし、医療者からすると、「なるべく早く方針を決めて、治療に入りたい」のが通常で、とくに、今、栄養を確保したら改善が早いと思える患者さんであるほど「はやく決めてほしい」と思っています。なので、健康な時に少しでも考えていただけたらと思い、個人的な意見も踏まえつつ書きました。
普段からご本人と家族様だねもし食べられなくなったらどういった方法をとったらいいのかということを少しでも話をしておくことは大切です。いざという時に選択を求められた人が迷わないように、もしご自身に非常に強い意志があるのであれば、何か一筆書いてもことをお勧めします。

そして、家族が口から食べられなくなったとき、何を選択するのかどうしても迷った場合、医療者に「あなたの家族だったらどうしますか?」と聞いてみるのも一つです。私たちはある程度、家族さんに説明をするときは、医療職としての意見を述べています。でも、自分の家族であればどうするかという個人的な意見は別であることが少なくありません。医療職同士では「自分の親だったらこうする」という会話はよく交わされています。「私だったら、こういう理由で、これを選択する」といった率直な意見は参考になるかと思います。ただし、こうした質問を嫌がる人もいますので、そこは慎重に判断なさってください。

食べられなくなったらどうするのか?は、非常にデリケートな問題で、本人や家族の価値観、生命倫理に関係するものです。書くのにも勇気と労力を要しました。いざという時のために、頭の隅に置いてもらい、少しでも参考になると幸いです。

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