文章理解の困難さの背景にあるワーキングメモリの低下 〜失語症と高次脳機能障害者に対する言語リハビリ〜
おはようございます。言語聴覚士の西村紀子です。この記事では見えない障がいと言われる『高次脳機能障害』・『失語症』についてお伝えします。ご本人・ご家族・言語聴覚士を始めとする支援者の方が少しでも生活における困りごとと背景について理解することができるよう書いていきます。
文章理解の困難さの背景にある、ワーキングメモリの低下
高次脳機能についての授業で必ず習うワーキングメモリー。何かを作業するときに必要な記憶のことで、その何かが終わってしまえば、その記憶は不要になり忘れてしまいます。
こんな感じで習いましたよね。
有名どころで言えば、電話番号です。7桁(携帯であれば11桁!とても無理だから初めの090とか080とかは、テンプレとして記憶しちゃう人が多いかもしれませんが)の数字をプッシュするまでは覚えておいて、そのあとは忘れてしまいます。簡易の認知検査では「白い紙を右手でもって、半分に折って、私に渡してください」という項目があります。
こうしたことがワーキングメモリーですがほかにも文章理解、発話の理解にも影響がとてもあります。
言語療法での例をお伝えします
美容学校に行っているAちゃんの例をあげてみます。
A:このテキストの文章が理解できないのです
S:読んでみてくれますか?
A:シャンプーは、汚れている皮膚と毛髪を綺麗にして、毛髪の美しさや健康を維持することを目的に行います。その際に湯の温度、お客様の首の角度や頭の高さに不快感がないか確認をし、緊張しないように顔にタオルをかけます。シャンプー剤が顔面の皮膚にかからないように、泡立てに気を付けて行います。
いくつもの要素が入っている文章ですね。これを一気に理解するには、記憶の箱がそれなりに大きくないと把握できないです。
では言語聴覚士はどうアドバイスをしたらいいのか?
A:なんか全然頭に入ってこないんです。どうしよう
→ まず不安を除きましょう
S:たくさんのことが書かれている文章だよね。中身が理解できないというより、量が多いのが問題かもしれない。
→ 原因を伝え、落ち着いてもらう
二つに分解してみようか。この文章は2つのことが書かれているってわかります?
→ 対処方法を伝える
A:えっと・・シャンプーですよね。2つですか?
→ 全体が把握できないと、分解も難しい
S: この文章は、「シャンプーの目的とシャンプールするときの注意事項の2つが書いてあります。それぞれについて、また2つずつのことが書いてあるの。そういう構造になってます。
→ 構造について、文字で呈示する
この例で言えば、
①シャンプーの目的
1.
2.
②シャンプーのときに注意すること
1・
2・
この空欄を、自分のことばで埋めてみましょうか
→ことばに置き換えないと、理解が確実にならないので、「自分のことばで」と伝える
A:あ、わかりました。
一緒に整理をする
テキストや職場の資料などは、構造化されずに、つらつらっとたくさんの情報が書かれているものが多いですよね。それを、箇条書きなど、整理すると理解ができます。ただ、自分自身で、整理するまでには、時間がかかります。なので一緒に整理をしていきます。
ちなみに、この文章構造を把握さえできれば、全く新規の情報でも理解できるものです。例えば、↑の例は人間のシャンプーだったので、ぱっと聞いても私は当然理解できます。しかし、トリマーなど犬や猫に関するテキストでも、「用語さえわかれば」テキストで書かれている文章の理解はできます。
反対に、Aさんのように、用語がわかっても、ワーキングメモリーが低下していて文章の全体構造が把握できないと、理解は難しくなります。小さい単位にわけることも困難です。よって、「何が書いてあるかわからない」となってしまいます。
同じ文章理解の困難さでも、失語症を背景とした文章理解の困難さと、ワーキングメモリの低下による文章理解の困難さは、原因も対処方法も異なるのです。
ワーキングメモリの低下については、鈴木大介さんのセミナーをよく聞いてみてください。
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