臨床家には必須の力~答えがでない事態に耐える力~言語聴覚士のお仕事
この本は、多くの受賞歴をもつ小説家であり、臨床40年の精神科医の医師である帚木蓬生先生が、長年精神科医として患者さんに向き合ってきた経験をもとにご自身の考えをまとめた本です。サブタイトルそのままですが、
世の中の事象、全て、答えなんてすぐには出ない
そこをじっと耐えることが、大事なんだ
ということを、あらゆる角度で書いています。
実は、私はこの本に、あるタイミングで出会って救われました。
なんでなの?結局どうなるの?
この答えがどうしても欲しいときってありませんか?
その背景にある自分の気持ちは早く答えを知って、安心したい。先が見えない不安から解消されたいだったりします。
でも、これ、耐えないといけないんですよね
そもそも答えがすぐに得られるものって、本当にそれが真の答えなのか、微妙。
わかったつもりかもしれないし、対処療法なだけかもしれない
この本には、知る人ぞ知る山鳥重先生の「浅い理解と深い理解」についても書かれています。
マニュアルにもない、教えられてもない、自分の力で思考してようやく理解できでるのが、深い理解、発見的理解であるとあります。この発見的理解には、忍耐が必要。その長きに渡る時間、答えが出ない時間を耐えらるのは人間の脳に備わった希望的観測です。記憶の中枢として有名な「海馬」ですが、記憶だけでなく、明るい未来を思い描く働きも備えているのです。
面白いですよね。
以前、佐々木正美先生の本について書いたときに
「希望を伝える。これが臨床だ」を引用したのですが
まさに希望があるからこそ、人間は、過去の経験から学び、そこから目の前にある課題に取り組むこともできるし、答えが出ない不安な時期を乗り越えることができるのですよね。これは、脳卒中の患者さんをみていて実感します。
すぐに解決できないことが世の中はほとんどである。紛争や貧困、環境問題とか大きな問題から、自分の仕事とか人間関係とか、そうですよね。
子供たちにも、問題解決能力だけでなく、どうしても解決しないときにも、持ち堪えていくことができる能力(ネガティブ・ケイパビリティ)を培う、この視点が重要かもしれません
解決すること、答えを早く出すこと、それだけが能力ではない。
解決しなくても、訳が分からなくても、持ち堪えていく
なんでも「すぐに」のせっかちな私には、ガツンときた本でした。
ちなみに、余談ですが、この本はシェイクスピアや、ラブレー、キーツなどの文学に混じって、紫式部がかなりのページ数で登場します。かの「源氏物語」は、実は、光源氏を描きたいのでなく、多様な女性像を描きたかったのではないか。光源氏は、彼女たちが登場するための添え物、理由づけという視点が、面白かったかな。
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