【事例から学ぶ】高次脳機能障害の意思決定支援
今回は高次脳機能障害の意思決定支援方法とポイントについて、言語聴覚士の視点からお伝えしていきます。
急性期、回復期、生活期それぞれの事例を通じて考察してみましょう。
1)急性期事例「私のトリセツ(取り扱い説明書)を作ってください」
自己決定能力と意思決定
てんかん発作で緊急入院した40代の女性のケースです。
彼女は母親と同居して生活をしていました。また、高度な技術を活かし、在宅で仕事を請け負っていました。
しかし、バイク事故の後、名前が言えない、促しがないと動かないなど、事故の後遺症と思われる症状が現れますが、受診しませんでした。
数日後、てんかん発作により救急搬送されました。
麻痺はなかったのですが、目的動作ができず、ADL(日常生活動作)全介助の状態でした。
ADL自立となった頃、本人と家族の強い希望で自宅に退院となりました。退院後、週1回の外来リハビリを受けながら、自宅での様子をヒアリングし、障害の説明とアドバイスを行いました。
彼女は以前のように仕事ができないと気がついていたものの、時間をかけてやればできる、やらねばとの思い込みが強くありました。
契約先に事故や高次脳機能障害の説明や交渉をすることなく、連日、数時間にわたり仕事を続け、遠方への出張にも行きました。
しかし、失敗が増えるにつれて、「私が私をわかってないのに説明なんてできません。私の取説を作ってください」
との訴えがありました。
ですが、診断書を作成しても、提出していない様子でした。
また、てんかんや転倒を繰り返し、呂律が回らないなどの症状もみられ、ましたが、母親が薬の副作用と思い込み、薬を中断させてしまっていました。てんかん発作により再入院が必要となりました。
入院中、医療チームは高次脳機能障害の説明を繰り返しました。
入院時、「早く自宅に帰りたい」と言っていた彼女も、病状理解がすすむにつれ、「病院に仕事を持ち込んでよければ、入院して仕事量や薬の調整をしていきたい」と入院継続を考えるようになりました。
しかし、母親は依然として早期退院を希望し、再び退院の話が出ました。
服薬管理、状態確認のために、訪問看護ステーションに情報提供が行われ、自宅退院が実現しました。
しかし、半月後には本人と家族から「必要ない」という連絡があり、訪問看護は終了しました。
その後、彼女の生活状況についての情報は得られませんでした。
この事例は、自己決定能力が低く、母親の病状理解が乏しいにもかかわらず、早期退院の希望に従ってしまい、最良の利益が得られなかった例です。
1回目の入院では問題行動もなく、知的な会話も可能であったため、問題点を見過ごしてしまったことがあります。再入院時には繰り返し説明が行われましたが、病状理解が進まず、結果、継続的な支援が行き届きませんでした。
どれもが、高次脳機能障害が見えない障害であるゆえの課題でした。
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子供が自立するまでは子育て記事も書いていましたが
この数年は言語聴覚士に関係することだけを書いています。
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