失語症の誤診が生む人権問題 – 未診断が与える深刻な影響

こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。以前、非流暢性失語症と流暢性失語症について、評価の大切さについて書きましたが、本日は、未診断が引き起こす深刻な影響について書いてみようと思います。
見過ごされる失語症の症状
言葉が出ない、もごもごしてしまう症状がある場合、実は失語症で言葉が浮かばなかったり、音がはっきり想起できない、発語失行などの非流暢性失語症である可能性があります。しかし、いまだに「構音障害」と判断されることが少なくありません。
この診断の違いは、単なる医学的分類の問題ではありません。患者さんの人生に深刻な影響を与える可能性があるのです。
診断が変える人生の重大な場面
カルテに「構音障害」と記載されたり診断名にされると、その後深刻な問題が生じる可能性があります。特に重要な書類にサインする場面を考えてみてください。
失語症の人は十分理解できずにサインしてしまうことがあります。しかし、診断が構音障害となっていると「あなた、わかってましたよね?」という状況になってしまいます。
失語症とは「外国語の世界に放り込まれた状態」
失語症とは何かと聞かれたら、私はこう説明します。「外国語の世界に突然放り込まれたような状態」です。
英語圏、中国語圏、アラビア語圏など、そんな場所でよくわからないままサインをして、後で自分にとても不利だったと知る。でも「もうサインしましたよね?わかってましたよね?」と言われたら、どうでしょうか。
これは明らかに不公平な状況です。適切な説明や配慮なしに重要な決定を迫られ、後でその責任を問われる。このような状況は、失語症の方々の基本的人権に関わる深刻な問題なのです。
正しい診断の重要性
失語症の人は実はたくさんいます。しかし、適切な診断を受けられずに、本来必要な配慮や支援を受けられない方が多く存在します。
構音障害と失語症では、必要な支援も配慮も全く異なります。誤った診断は、患者さんの権利を奪い、社会参加の機会を制限してしまう可能性があります。
医療従事者だけでなく、社会全体が失語症について正しく理解し、適切な診断と支援体制を整えることが急務です。一人ひとりの尊厳と権利を守るために、私たちにできることから始めていく必要があります。
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