雑談は聞き上手から始まる – 失語症の方が抱える最大の悩み

雑談は聞き上手から始まる – 失語症の方が抱える最大の悩み

こんにちは、言語聴覚士の多田紀子です。2019年からオンラインで言語療法を行っています。

前回は失語症の本質が「アクセス障害」であることをお話ししました。今回は、多くの方が最も悩まれる「雑談」について、新しい視点からお話ししたいと思います。

多くの人が抱える共通の悩み

私がこれまでに出会った失語症や高次脳機能障害の方々のほとんどが悩まれるのが「雑談ができない」ということです。かなり軽度の方でもこの雑談に困っていらっしゃいますし、実は病気や障害がない方でも苦手としている人は多いのです。

つまり、雑談は多くの人にとって難しいものなのです。

雑談が難しい理由:脳科学的な視点から

雑談は、漢字から受けるイメージとは全く違い、非常に高度な脳機能を使います。

例えば:

  • 話題があちこちに飛ぶ
  • 複数の人で話す場合は、いろいろな人の話を聞いて瞬時に理解する
  • また次の人の話を聞くといった高度な情報処理が求められる
  • さらに文脈を推測することも必要

このように、雑談には非常にたくさんの脳機能が必要なのです。

雑談の実態:驚くべき統計データ

国立国語研究所の日常会話コーパス報告書によると、私たちの1日の会話の6割以上、時間にして67%を雑談が占めているそうです。その次が相談となります。

会社という組織でさえ、目的や話題が決まっていない会話で人間関係が構築されていくのですから、「雑談ができない」という悩みを抱えるのは当然のことです。

雑談の本質を理解する

しかし、雑談をする人の気持ちを考えてみてください。ほとんどの人は、単に自分の話を聞いて欲しいだけなのです。

ですから、パッと言葉が出ない、気の利いた言葉が出ないと悩むよりも、相手の話をしっかり聞いて相槌を打つだけでも、十分雑談の輪に入っています。

何か気の利いたことを言おうとして上の空になるよりも、話に集中して聞く方が断然良いのです。

コミュニケーションの新しい視点

話をするだけがコミュニケーションではありません。相手の話を聞くということも、とても大切なコミュニケーションなのです。

その場にいて話を聞くだけでも、あなたは輪に入っているのですから。

まとめ

雑談は確かに高度な脳機能を要求する難しいコミュニケーションです。しかし、完璧に話す必要はありません。良い聞き手になることから始めれば、十分に雑談に参加できるのです。

この考え方は、失語症の方だけでなく、多くの人にとって心の負担を軽くする視点だと思います。

次回は、「言葉が出ない」という悩みの背景にある心理的・生理的なメカニズムについて、脳科学の視点から詳しくお話しします。

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