私が知らなかった退院後の世界

みなさん、こんにちは。言語聴覚士の多田紀子です。2019年からオンラインで言語リハを始めました。当初は「何それ?」と言われたものですが、2023年頃から、学会でお話する機会や執筆の依頼を頂くようになりました。今日は、オンラインを始める前の前、私が病院を飛び出して、NPO法人をつくるきっかけになったことについて書きます。
一人の患者さんとの出会い
私がNPO法人を設立するきっかけとなったのは、脳神経外科病院で出会った一人の患者さんとの体験でした。
その方は6年前に脳出血を患い、今回はてんかん発作で入院されていました。退院の際、訪問した作業療法士を通じて、彼が書き続けていた日記を託されました。その日記には、リハビリ病院退院後の長い日々が綴られていたのです。
日記が語る厳しい現実
彼は一度会社に社長として復帰を果たしたものの、ストレスによる症状悪化を繰り返し、最終的に医師から退職を勧められ、うつ病を発症して引きこもり状態になっていました。日記を読み進めるうちに、私は愕然としました。最初はしっかりとした文章だった内容が、次第に文字が乱れ、文章構造も崩れ、最終的にはほとんど読めない状態になっていたのです。左空間無視の症状も現れ、文字は斜めに書かれ、判読困難になっていました。
自分の無知に気づいた衝撃
この体験は私に大きな衝撃を与えました。リハビリを終えた患者さんが再び脳機能の低下を経験する、いわゆる「言葉の廃用」という現実を目の当たりにしたからです。そして何より衝撃だったのは、病院で働く私自身が、患者さんの退院後の実情を本当に知らなかったということでした。私は自分なりに仕事熱心だと思っていましたが、実際には自分の知っている範囲でしか熱心ではなかったのです。きっとこの患者さんに出会わなかったら、私はこの重要な事実に気づくことはなく、いかに自分が無知だったかということも知らないままだったでしょう。
NPO法人設立と新たな発見
退院後の生活がいかに困難で、そこからが真のリハビリなのだということを、多くの人に知ってもらいたいという想いからNPO法人を設立しました。活動を続ける中で、多くの方から「退院後に言語聴覚士がいなくて言葉の問題で困っている」という声を数多く聞くようになりました。
オンライン言語リハの誕生
当時、NPO活動のためにZoomで頻繁に会議を行っていた私は、「言語リハビリもZoomでできるのではないか」と考えました。海外の状況を調べてみると、遠隔リハビリは既に一般化されていることを知り、驚きました。
そこで2018年末、オンラインでの失語症リハビリの可能性を探るため、10名の方にモニターとして協力いただき研究を開始しました。当時、オンラインで言語療法を行うなんてバカにされることもありましたが、その後事業化に至ったのです。コロナ禍でZoomが普及する前から、この取り組みを始めました。コロナ禍で随分、オンラインに対する認識が変わってきたなと実感しています。
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