障害者を支える制度は誰のため?〜言語聴覚士のお仕事〜
高次脳障害者支援についての勉強会に参加してきました。随時、感想をまとめたいと思います。初めはこちら、白山靖彦先生の講義から。具体的な内容ではなく、社会について考えるきっかけをいただきました。
マイノリティーを排除すると、みんなが住みにくい社会を作り出す
「排除アート」を聞いたことがありますか?路上生活者を排除するために、公園のベンチを「ごろっと横になれない形」にしていったものです。詳しい記事はこちらをご覧ください。
異質なものをとりあえず排除してしまおう!の試みで、結果どうなったと思いますか。公園を憩いの場としていた、高齢者、子供たち、昼休みの会社員、ことごとく訪れなくなり、公園は閑古鳥、市民の憩いの場が減ったそうです。
バリアフリーが言われて10年以上経ちますが、未だに、車椅子の方々を普通に町中を見ることは少なく、白杖の人が路面を叩きながら歩くと「うるさい」と苦情を言われ、ベビーカーさえも「たたんでください」と言われる社会。みなさん、安心して暮らせますか?
現在の医療は、早期退院がテーマで、どんどん入院期間は短縮しています。退院先に支援する制度が未整備のまま、自宅に返しましょうの流れはどうかと、常々疑問に思っているところです。「あの人はどうしているのだろうか?暮らせているのだろうか?」そんなことが頭をよぎらない病院スタッフは少ないのではないでしょうか。
脳卒中の後遺症である高次脳機能障害者は、年単位の長期にわたって改善していく人が多いものです。その間、つまり復職まで訓練する制度がない、とりあえず、介護保険のデイサービスに通うしか通う場所がないことが多く、勤労世代であるにもかかわらず収入が「年金受給、生活保護だけ」という人が益々増えていきます。制度があれば、少しでも税金を納めるtax payerになる可能性があった人たちが、です。結果、ますます勤労している人たちの、社会保障負担が増えています。
制度を作り上げるのは大変であるが、そこを乗り越えてしまえば一気に好回転する
現在、高次脳機能障害者の「支援事業」の一つで、指定された支援機関に相談窓口が設けられています。相談件数は、全国平均で10万人あたりにつき100件。では100件以下の地域は問題がないのか?いえ、窓口の存在さえ知らない、制度の谷間に陥っている人が多数いるのです。そうした人たちを掘り起こす取り組みをしていくほど、窓口に多くの相談が殺到して、担当職員は大変になります。白山先生の言葉をお借りすると「死ぬんじゃないか・・の時期があった」
しかし、現状を把握し、必要なシステムを作り上げていく時期を過ぎると、一気に好転していくそうです。過去の問題をある程度清算し、必要な制度を作ってしまえば、あとは新規の問題を制度にのせていけばよいし、制度も改善していけばよいのですから。
そこまで、もっていける人・金・時間に余裕があるかどうかが鍵となるかと思います。
素晴らしい症例紹介がありました
復職支援機関がなくて、デイサービスに通っていた40代の方が、どんどん改善してきて、デイサービス内で高齢者の車椅子を押すなど自主的にしていたそうです。ある日、その施設が「もうサービスを受ける側でなくて、与える側になったらどうですか?」と持ち替えて、ヘルパーの資格を取得、パートで働くようになったそうです。すばらしい話ですよね。「あぶないからやめてください!」となんでもダメ、ダメと止めなかった施設も珍しいですが、「働きませんか?」と持ちかけるなんて、初めて聞きました。そんな視点をもっているスタッフに、心から敬意を表したいと思います。
障害者を支える制度は、障害者のためだけではありません。私たち、今は、何もなく過ごしているかもしれない多くの人たちのためです。自分や家族が病気や後遺症を呈しても生活ができるという安心感だけでなく、どんな人でも役割をもって生活できると社会負担を減らすことにもなるのです。
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