家族は感謝の言葉が欲しい〜高次脳機能障害者の声なき声〜
こちらの当事者の手記をもとに記事を書いている「高次脳機能障害者の声なき声」です。今年(2018年)に、奥様を介護している小室哲哉さんのニュースが話題になりました。当初、マスコミの報道は「不倫疑惑」のみでしたが、すぐに当事者、介護をしている人たちから、現状のつらさについて声が上がってきました。私もそこに焦点を当てて欲しいと切に願っています。
脳出血で丁度7年前に倒れた。僕は20日間意識不明で、一命を救われた。当時僕は子供4人いた。一番上の子は小学校四年生で一番下の子はまだ幼稚園に通っていた。出血の量はものすごく多くてまず車椅子で生活を医師に宣告された。脳出血、高次脳機能障害、てんかん様々な後遺症を持っていた。子供たちは嫌な顔一つもみせずに笑顔で笑っていた。7年経つと立派な子供に育っていた。僕はもう社会に出てすっかり安心した。この病気になると家族のサポートが一番大切である。僕は妻はもちろん小さな子供たちとも精神的に支えてもらった。特に妻は病気に倒れて悲しい顔も一つもみせず、いつも僕のことを考えていた。リハビリを終わってからいつも僕の状態をセラピストに聞き、毎月ケアマネージャーを訪問をしていると何かいいところをないかと、熱心に相談していた。僕はいつも迷惑かけて申し訳ないと思っていた。
これは手記の一部です。こう書いてあると、いつも妻に「ありがとう」「迷惑をかけてすまない」と声をかけていると思いませんか?介護で疲れているときには、いたわっていると思いませんか?現実は違います。でも、ここに書いてあることは「うそ」でもありません。ここが難しいところなのです。
感謝の言葉がない
私が家族さんと接していて、なによりも大変だと思うのは、高次脳機能障害である当事者から家族への感謝の言葉がないことです。当事者とゆっくり話をしたら家族に対して感謝していないわけではないのです。しかし、この場面でこうした声かけをしたらいいという判断が難しいため、家族にしてみれば「これだけ尽くしているのに」という気持ちがわいてくるのです。例えば、主たる介護者が家事・仕事・介護に追われ、疲れはてて台所のテーブルに突っ伏して寝たしまった時。普通であれば「疲れたんだな」と思い風邪をひかないように、肩にショールをかけてあげるなどしませんか?しかし、高次脳機能障害になると相手の状況が読めにくいので「こんなところで寝てたら風邪をひくよ!」としか言えません。いちお、風邪をひかないようにと相手のことを思っているし、事実なんだけど、そうじゃないでしょ・・という感じです。
私が子供を出産した時に、たまたま手に取った育児書に女医さんに相談コーナーがあり、そこに重度の自閉症のお子さんを育てているお母さんから「子供が可愛くないわけではない、だけど、一回でいいから、ママありがとうと言って欲しい」と相談が寄せられていました。女医さんのお返事は「障害をもった子供を育てる大変さは重症度だけでは計れない。お母さんに向けた笑顔があるかどうかも重要で、ダウン症のお子さんが育てやすいのは、あの人懐こい笑顔にお母さんが救われるからです。その点、自閉症のお子さんを育てているお母さんは、お母さんに向けた笑顔が少なく、心の交流が難しいため、ガラスの向こう側にいるように感じるものです。でも、その子にとってのお母さんはあなたしかいなく、子供も自分にとって大事な人であるとよくよくわかっているのです」というような内容でした。
家族にしてみると、愛情がないわけではない、介護したくないわけではない、でも最も感謝の言葉を言ってほしい人から感謝の言葉をもらえない辛さがあるのです。
高次脳機能機能障害者は、心の問題も抱えている
高次脳機能障害者は、少なからず相手の気持ちを汲み取ることが苦手となります。それだけではありません。人生の半ばでこの障害になり、なぜ自分がこんな病気になったのか、以前の自分はこうではなかったと、自分のことばかりに気が向いてしまいがちなのです。記憶が悪くなった、注意散漫になったという認知の問題だけでなく、うまくいかない自分にいらいらする、落ち込むなどの心の問題も抱えています。自分のことでいっぱいなので、余計に家族を慮ることがないのです。
まず、こうした現実を知ってほしい
この手記を書いた当事者だけでなく、この手記を一人で多くの人に読んでほしいと願っていたのは、この妻でした。若くして介護する身になった彼女の周りには、こうした現実を知っている人は一部の医療・福祉関係者だけでした。でも、医療保険も介護保険でも、家族ケアは制度としてありません。この障害だけでなく、ほとんどの病気や障害でも、制度として家族ケアは取り組まれていません。本当は病気と闘っている人、障害を抱えながら生活している人が、幸せになるためには、介護している家族が幸せになることが一番大切なのですが。今日は、こうした現実があるのだと、知ってもらえると嬉しく思います。
最後に
この手記の出版プロジェクト、こちらをご覧ください→障がい者の社会復帰支援第1弾プロジェクト
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