情報収集についてNo2〜言語聴覚士のお仕事〜

情報収集についてNo2〜言語聴覚士のお仕事〜

前回、情報収集は何のためにするか?について書きました。そうはいっても「何が必要なのかがわからない」とよく言われます。あたり前かもしれないですが「入院前と退院後の生活」がどうなのか?という視点で情報収集をしていきます。

入院する前の生活は?

こちらあくまでも言語聴覚士という職種で必要だなと思う基本的なことを挙げてみました。もちろん、個別性が高いので患者さんごとに追加が必要なものもあります。「当たり前でしょ」「他にもあるよ」という言語聴覚士さんもいれば、「え?こんなことも必要?」と驚かれる人もいるかと思います。一緒に考えてくださると嬉しいです。それから、患者さんや家族さんの立場の方、根ほり葉ほり聞かれて不快に思わないでくださいね。こうした理由があるのです。

    • ADL:言われる日常生活動作である「食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動」が自立していたのか?または介助を要していたのか。また食事形態はどうか?も把握しておきましょう。
    • 既往歴、合併症:嚥下障害の人に関してはこれまで誤嚥性肺炎を繰り返しているのかどうかは、非常に大事な情報です。改善が厳しいとなると、栄養確保をどうするのか?または自然に食べられるだけにするのか?なども考えなくてはいけません。呼吸器疾患や、逆流性食道炎、ヘルニア、イレウスなども、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
    • 身長、体重:もともと嚥下機能が低下している人は、BMIが低い、いわゆる低栄養の状態はとても多いですね。改善までに時間を要しますし、リハビリを積極的に行う前に、まずは代替栄養で状態改善が必要となります。
    • 家族関係:同居、別居(この場合、近いか遠いかも)。家族に協力を頼めるかどうか判断するために、どんな人がいるかだけでなく、関係は良好なのか疎遠であるかも確認しておきましょう。また勤労世代であれば、配偶者が働いているかどうかも把握しておく必要があります。
    • 仕事:これは非常に大事ですよね。特に復職する方については、具体的な業務内容を聞いてリハプログラムに反映させなくてはいけません。退院後は疲労しやすいので、通勤手段と時間、労働時間(残業ふくめて)も聞いておくといいです。都会であれば、通勤ラッシュがあるのかどうかも。もちろん、自動車運転が難しい人であれば、代替の手段を考えなくてはいけません。社会保障制度が違うので、雇用形態も把握しておきましょう。
    • 職歴:正規雇用で長期間同じ会社という人と、何度も転職を繰り返しているとか職場を変わったばかりという人では、復職に際して職場との交渉が変わってきます。また、現在は退職している年代の人であっても、どんな仕事をしてきたのか知っておくと、その人が最も興味を引くことがわかるので会話訓練に活かせます。
    • 学歴:これも大事!WAISなどの知能検査に影響があるだけでなく、もともと学習習慣はどうであったかがわかると言語課題の量や時間などの参考になります。そして、私の経験上ですが、学生時代に交通事故に遭い、そこから学習がすすまなかったという、いわゆる高次脳機能障害の診断もれの人もいます。
    • 経済状態:これは非常に大事です!経済的に困窮しているために、必要なリハビリや社会資源を受けることができない人もいます。嚥下障害の方でしたら、在宅で嚥下食や補助食品購入、宅配弁当の利用というのも難しくなります。
    • 性格や趣味:これはラポール(信頼関係)構築するために必要な情報。趣味に関連する話題などが少しでもあれば、会話のきっかけとなります。養成校時代には「頭の引き出しに雑学のネタを増やしておくこと」を懇々と指導されました。また失語症の訓練では、親密度が高い言語を利用することが必須ですから、趣味ネタは重要です。ちなみに親密度が高いとは、その人が生活の中で深く関わっている、馴染み深い言葉のことで個人で全く違います。例えば、凄腕の証券マンでしたら、一般人には馴染みがない人が多い「為替」「先物取引」という言葉はとても親密度が高い言葉となります。
    • 生活習慣(食事、運動、喫煙、睡眠リズム):再発リスクを考えるときに必要ですね。そしてこうした習慣を改善するのはとても知的な能力と意思を要するため、精神機能や知的能力が低下している場合、当人だけでは改善が難しくなります。あと、昼夜逆転している生活を送っていた人、とくに高齢者は入院中も逆転傾向があり、リハビリが進まないだけでなく、決まった時間にご飯を食べることも難しいです。予後予測の参考になります。
    • 活字習慣、IT利用状況:記憶障害がある人に「メモを活用しましょう」と言っても、もともとメモなどしたことがない人は厳しいです。スマホにいくら便利な機能があるといっても、それまで使っていない場合は使いこなす練習が必要です。
    • 運転の有無自動車、自転車、バイクなど。軽い高次脳機能障害でも、発症後すぐはリスクが高いです。自動車に関しては運転免許センターで適正検査を薦めることが多いです。

 

入院前、この患者さんはどんな生活を送ってきたのだろうか?という視点で、情報収集します。その情報を目標設定やリハビリプログラムに反映させましょう。

最近は、母語が日本語でない人も増えてきましたので日本語の習熟度も必要です。その国の文化、生活習慣も大事な情報となります。

 

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