低栄養と廃用症候群による嚥下障害〜口からものを食べられなくなったらどうしますか?

低栄養と廃用症候群による嚥下障害〜口からものを食べられなくなったらどうしますか?
このシリーズ5回目の記事です。以前の記事はこちらをご覧ください
口からご飯が食べられなくなる嚥下障害は、脳卒中や進行性疾患など様々な原因で生じますが、その中で最近注目になっているのが低栄養による嚥下障害です。中には清涼飲料水などエンプティーカロリーのものばかりを食べ、肥満なのに低栄養と言う方もいますが、今回は主に高齢者における低栄養と嚥下障害について書きます。

低栄養と廃用症候群による嚥下障害

在宅高齢者だけでなく施設、病院でも痩せ型の高齢者は非常に多く、体重だけではなく筋肉量、筋力、活動量全てが落ちるのがサルコペニアと言われ、近年話題となっています。麻痺が出現したわけでもなく、少しずつご飯が食べられなくなり、その結果さらに嚥下障害がすすむと言う悪循環になります。
急性期の病院にいると、施設から入院してくる高齢者に、このような嚥下障害を非常に高率に経験します。もちろん施設がいい加減という話ではなく、食べる量が少なくなりむせることが多くなったなど状態が少しずつ悪化しても、スタッフの人数も少ないということでなかなか気がつきにくく、施設では補助栄養食品や点滴などを施すのも難しいため、脱水症、脳卒中、誤嚥性肺炎を起こして入院、入院先の病院で嚥下障害が明らかになることは少なくありません。
嚥下機能が低下しているためすぐご飯を食べられないので、基本的には本人または家族の了承ものと、鼻から栄養を入れるチューブを入れて栄養剤を流すという経鼻経管栄養を開始します。だいたい1日1,200~1,500キロカロリーを入れるとだんだんと栄養状態が改善しリハビリも進んで、再び食べることができるようになる人もいます。しかし、必要量を食べられるまで回復できるとは限らす、施設に戻ったら必要な栄養量を口から食べられない日が続き、また痩せて、その結果、悪化して病院へ再入院と言う負のサイクルをくるくる回ってる人も少なくありません。
もしここで胃瘻を増設して、注入食で栄養を補給できたら、今の機能を維持できるのになと思いますが、胃瘻を増設するのか、または自然の流れに任せるのか、これは本人や家族さんの判断に任せるのが基本です。

判断を任せる前に必要な情報を提供しよう

しかしよくよく本人や家族の話を聞いてみると「胃瘻を作ったらもう口からたべられなくなる、寝たきりになる」という理由で拒否されることが多いです。必要なカロリーを胃瘻で確保して、あとは食べられる分だけ少量でも口から食べるという「食べるための胃瘻」ということを知っている一般の方は少ないです。しかし、医療の現場では、説明義務があるにもかかわらず医師が非常に多忙なためゆっくりと話をする機会はほとんどないかと思います。そこで看護師や私のような言語聴覚士が、本人や家族さんに時間をかけて話をする必要があると考えています。
「そんなこと今まで聞いたことがなかった」
これが本人や家族さんから聞かれる言葉です。できれば、いずれ食べられなくなるということを想定して早い時期にどうしたいか考える、そして医療は変わっていくので、定期的に考え話し合う必要があります。

認知症だから意志決定できないなんて決めつけないで

寝たきりでガリガリに痩せた高齢の女性。まだ元気でおうちに住んでいた時に、胃瘻で寝たきりになった家族さんの介護を数年間されていました。意思疎通もできず、頻回に訪問看護師に吸引をされている姿を見て、私は絶対に胃瘻なんてしないと、お子さんに話をしていたそうです。
その数年後、この女性は施設に入所、脳出血や肺炎などで入退院を繰り返し、だんだん痩せてきて、ついに今回は回復も厳しいだろうなぁという状態でした。たとえギリギリ食べられる状態で施設に戻ったとしても、また2、3ヶ月で入院だろうなと予測がつきました。認知症のため意思決定はできないと思われていたのですが、私は嚥下訓練をしながら話しかけてみました。
「ねー◯◯さん、この鼻のチューブがね、細い細いあなたの喉にとっても邪魔になるんです。だからほんとにいつも気をつけて介助しないといけないし、それでも喉に残る可能性があるでしょ。ちょっとだけしか食べられないよね。そしてこのお鼻のチューブのままでは施設に戻れないの知ってるよね。ほとんど食べれないまま施設に戻ったら、また痩せてここの病院に戻ってくることになるかもしれない。この胃に穴を開ける胃瘻を知ってるよね?これを作って、大切な栄養をここから入れて、そして少しだけ口から食べるという状態で施設に帰ることができるかもしれないのよね」
そう説明したとたん、彼女は真剣な顔で言いました。「そんな話聞いたことがなかった。だれもそんなこと教えてくれなかった」
「今は食べるための胃瘻って言って、食べ続けたい人のために胃瘻を作るってこともあるんだよ。今度家族さんが来た時、一緒にお話ししてみようか?」
「私の一存でいいんか?今までな、そんな話きいたことなかったからな・・」
少しだけ認知症かもしれないけど、なによりも彼女は口と舌の麻痺もあって呂律が回りにくいのです。だから言葉がちょっと不明瞭。そんなこんなで、よけいに「なにを言っているのかわからない」だから「説明する対象ではない」と思われていました。でも、話せますし、意見も言えます。

自分の人生をどうしたいのか?その意思決定を確認する時に心したい概念

意思決定とは、自分でどうしたいのか判断して表明することです。そのためには以下の二つが必要です。
判断能力:物事について個人的な判断を下すことができる能力で、認知症があっても引き出し方で判断が下せる
意思能力:自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定する精神能力。その決定を表明できることです。これは認知症と関係なくても、人間関係において表明できない場合もあります(こうしたいけど、言い出せないというパターン)
医療者は特に心にしておきたい概念だと思います。

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