100年ライフの復職支援〜言語聴覚士のお仕事

100年ライフの復職支援〜言語聴覚士のお仕事
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血または頭部外傷など、何らかの脳損傷を負った後に、これまでできていたことが苦手になる人がいます。注意・記憶・遂行機能力が低下する高次脳機能障害が原因です。例えば、パソコン業務が遅くなる、会議で何がテーマになっていたか忘れる、仕事の段取りが悪くなったり優先順位が決められない、1時間ほど作業すると頭が疲れてミスが増えるなど、が挙げられます。こうなるとこれまで通りの仕事を時間内に行うことが難しくなり、復職支援をしていくことになります。
ではこうした就労支援は何歳までが対象なのでしょうか?65歳から年金受給が始まる、定年が60〜65歳の方が多い等により、およそ65歳までを対象にしていることが多いと思います。しかし私が勤務する病院の地域は自営業の方も非常に多く、75歳過ぎても働いている方がいくらでもいるのです。その人たちは自営業だし、高齢だしという理由で復職支援の対象にはならないのでしょうか?
私は、本人がどうしても復職したいと言う気持ちがあるのであれば、年齢制限なく復職支援の対象になると考えています。

先生、私たちの人生は仕事なしでは語れない。なんとかしてください!

80歳を過ぎたある女性が入院してきました。手足にマヒがないものの、軽い失語症と注意・記憶・遂行機能障害を呈していました。担当セラピストは「もうお仕事は諦めて、家事ができるように自宅で少しずつ慣れていきましょう」と説明しました。そのあとです。患者さんが私に訴えたのは
「先生、私は9歳から実家の手伝いをしてきました。これまでずっと70年間、なんだかんだと商売をしてきたんです。今回入院する前の日も普通に働いてたんですよ、本当にいつも通りだったのです。先生お願いですから何とかしてください。仕事なしって、どう過ごしたらいいんですか?」
この女性はそれから3カ月間、外来でリハビリに通い、段階的に元の事務仕事に戻りました。毎日、日記と宿題のプリントをしてもらいます。日記にかかれた退院後の生活では、始めは食材を買いすぎて料理できなかったり、片付けした場所を忘れたり、事務書類をどこになおしたかわからなくなったり(見つけられなかったのかもしれない)まあいろいろありました。その度に、外来では「こういう工夫をしたらどうでしょう?」とアドバイスを行い、すこしずつ機能改善をみながら、事務仕事の内容を増やしていきました。4カ月のリハビリを経て、一部の仕事はあきらめたものの、無事に確定申告もできて、リハビリを終了しました。なぜか「私は仕事が本当に忙しい時は、これを食べて乗り切ってきました。先生、ぜひどうぞ」といって、黒にんにくをプレゼントしてくれました。

先生、運転の許可が下りました!こんな嬉しい事はありません

こちらは80歳の男性。週1回、30分程度の自動車運転が必要でした。なんと彼が免許を取った時代、自動車運転の試験は手旗信号だったそうです!その後50年間、無事故で通してきて、今回、足がすこしふらつくとのことで受診、小さな脳梗塞が見つかりました。幸いマヒはすぐに改善したものの、注意力が低下し、年齢のこともあり「もう運転を諦めてください」と言う話になりました。その後の、落ち込みと言ったらあまりにも激しく「私の魂を取らないでください。」と。これは認知症になるのではないかと心配になり主治医に相談したほどです。とりあえずは、退院してから運転はダメだけれども、外来でリハビリをして経過を見てみますかと提案をしました。その後見事にこれまでのお仕事をしながら、宿題をこなし、最後には自動車運転可能とされるテスト結果を得るに至り、運転免許センターの適性検査を受けに行きました。センターからいただいた電話から聞こえる喜んだ声は忘れられません。

もちろん、自動車運転は、事故になると自分のことだけでは済まないので慎重にしなくてはいけません。いくつかの論文で基準が提示されていますのでご参照ください。成書もあります。

確かに後期高齢者に復職支援?と思われるかもしれません。しかし急性期の病院では在院日数がたかだか14日前後。その短い期間に、これまでの人生全てを掲げてきた仕事をあきらめなさいと簡単に言うのは問題ではないかと思います。身の回りのことが入院期間内で可能となっているレベルであれば、退院をして前の生活に少しずつ戻っていく。その時に、機能回復を図るための適切な課題を用意し、日常生活や職場で困った点についてアドバイスを行うのが外来リハビリです。70歳を過ぎてもいくらでもの機能改善をして元の仕事に戻った患者さんはいます。共通する点は「どうしても仕事がしたい」と言う気持ち!年齢よりも本人の意思の方が機能改善に関与するのではないかと感じています。

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