会話の抽象度について 〜失語症と高次脳機能障害者に対する言語リハビリ〜
おはようございます。言語聴覚士の西村紀子です。この記事では見えない障がいと言われる『高次脳機能障害』・『失語症』についてお伝えします。ご本人・ご家族・言語聴覚士を始めとする支援者の方が少しでも生活における困りごとと背景について理解することができるよう書いていきます。
会話の抽象度について
以前、「現場の言語聴覚士に知ってほしい就労におけるこまりごと」で「言語の評価」にうついてお伝えしました。詳細はこちら
この時に、会話の抽象度について話をしています。会話は、相手に伝わりやすいように、「具体的」なことから「抽象的なこと(簡単に言えば、まとめ)」なことまでを言ったり来たりします。失語症・高次脳機能障害の方は、ここの調整が難しいのです。
具体的な説明がないと、状況がわからない相手には伝わりにくいですし、
具体例ばかりを述べると、「結局なんなの?」という話になってしまいます。
言語療法での例をお伝えします
例えば、こちら、先日の成人式の様子を話す軽度失語症のAさんと言語聴覚士Sのやり取りです
A)成人式がありましたね。姪も出席しました。大学生です。コロナで1年目はリモートだったし、いまも半分ずつって感じですかね。それでも可愛そうな気がする
→なんとなく相手には「可愛そう」と思った理由が推測できますが、ここ、いきなりまとめに入っていますね
S)なぜ、かわいそう?
A)高校の部活も続けてないみたいだし。お友達も近所の子とかで
バイトもどうだろ、近くのコンビニに少しだけ
→これは具体的すぎて、こうした例をいくら述べても、「結局、姪の何が可愛そうと思ったのか」伝わりにくいですね。
S)結局、何がかわいそうと思っていますか?
A)私のときは、大学が一番楽しかったです。このままだと
ぱっとしないまま就活でしょう?
→これは抽象的すぎてわからない
S)では、Aさんのときと何が違っています?
O)飲み会とかあって、夜まで騒いだし。あちこちいったりして
→これも具体例ですね
S)ほかには?
A) バイトをしたり、お小遣いを稼いで、旅行に行ったり。生活費は親だったのですが、でも、アルバイトのお金と時間があって。親の干渉も減って、なんていうのですか、あれ、あれ、、じ、じかつじゃないな、あれ
S)自由?
A)そう、それです。大学生は一番、自由な、いい時代ですよね
→親の干渉も減って、友達との活動範囲は広くなる。アルバイトのお金は好きなことに使える。こうした自由な生活が、Aさんにとって楽しい大学生活の思い出としてあります。
なので、本来、大学生は、親の干渉も減って、友達との活動範囲は広くなるし、アルバイトのお金は好きなことに使えて、最も自由な生活ができる時期。なのに、コロナ禍で、バイトもできない、遊びどころか通学もできない様々な制限がある生活をしている姪が可愛そうと思った。
太字が抽象度が高い表現(まとめ)です。こうして、具体例、まとめをとりまぜて会話をすると相手に伝わりやすいですよね。
言語聴覚士さんへ
失語症や高次脳機能障害の人を担当する言語聴覚士さんや、周囲の支援職の方は、「Aさんが相手に伝えたいことは、これですよね!」という、正解例まで導いてみてください。
失語症や高次脳機能障害の人で、日記を書いている、または宿題として自分の生活や感想を書いている人は多いと思います。ただ書くだけでなく、また書いた文字を読んでもらうのではく、言葉のリハビリ、会話の練習に活用してください。
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