認知症と嗅覚の関連〜言語聴覚士のお仕事〜
医療と健康、そしてリハビリの情報〜言語聴覚士というお仕事〜本日もよろしくお願いします。
前回、認知機能と嗅覚の関連について書きました。今回は、認知症についてです。
高齢化社会の進んだ日本では、262万人が認知症と予測されています。経済的にも大きな負担となって問題視されていますが、「自分が認知症になったら?」という不安を抱える世代と「親が認知症になって介護の必要が生じたら?」という世代も合わせ、関心がないという人は少ないのではないかと思います。
お薬もたくさん開発されていますが、有効なものとして確立されているものは少ないのが現実のようです。これは、薬効だけでなく、投与時期や認知症のタイプに合わせた処方が難しいことも一つとされています)
アルツハイマー病との関連
アルツハイマー病とは、脳内のアミロイド斑出現、神経原線維変化、脳内の神経細胞(ニューロン)間の連結の消失を特徴とします。
そして、症状が出現する10年以上も前に脳内において、蛋白の異常な沈着によりいたるところにアミロイド斑とタウ蛋白からなる神経原線維変化が生じ、これらがもつれあって沈着してしまうことで、健康であった神経細胞は相互に機能して連絡し合う能力を失い、最終的には死滅し、この領域の脳は萎縮してしまいます。
この病変が記憶を形成する海馬に及ぶと、記憶障害を呈します。そして、前回の嗅覚メカニズムに書いたように、嗅刺激はダイレクトに海馬に入力されるので、海馬周囲異変があると、嗅覚に変化が生じるということです。
軽度認知症(MCI)との関連
軽度認知障害(MCI)とは、記憶または思考や判断力の低下とった症状がみられていますが、日常生活でな大きな問題にはいたっていない状態です。しかし、MCIの高齢者は、5年以内に50%と言われるほど高率にアルツハイマー型認知症を発症するとも言われています。こちらも嗅覚との関連が示唆されています(勝 沼 2014)
嗅覚刺激で、認知機能の改善が図れるのか?
数年前に報道されたように、ある精油の香りで「認知症がなおる!」といった研究結果はまだないようです。
- 嗅覚神経は、「再生能力」が高いため、嗅覚を刺激することで神経変性が食い止められるのではないか?
- 嗅刺激は海馬を直接刺激するので、機能活性化が図れるのではないか?
これらの可能性が考えられているようですが、まだ未解明の部分が多いようです。
「脳トレ」で有名になった川島隆太先生の考案した「学習療法」を取り入れている医療、福祉の現場は多いと思います。私も職場で使っていますが、これ、何が問題かというと、「取り組む本人がやる気になってくれないと、効果的にできない」ことです。ゲームソフトなど楽しく取り組める仕掛けがないと、効果が薄いです。おまけに「なんでこんなことを!」と怒り出したり、できなかった時にショックを受ける人もいます。
それに比べて、「香り」を用いた嗅覚刺激は、本人の意思と関係なく脳を刺激してくれそうです。意識障害があっても取り組めそうです。このあたりが、他の感覚刺激との違いかなと思います。言語訓練と併用してみたら面白いかもしれません。
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