自分が、または家族が口からものを食べられなくなったらどうしますか?No3〜言語聴覚士のお仕事〜

自分が、または家族が口からものを食べられなくなったらどうしますか?No3〜言語聴覚士のお仕事〜

口から食べられなくなった場合に、人工的に水分や栄養を補充することを経管栄養法といいます。No1・No2では、その1つである胃瘻について、さまざまな誤解が生じていることを書きました。

自分が、または家族が、口からものを食べられなくなったらどうしますか?No1

自分が、または家族が口からものを食べられなくなったらどうしますか?No2

今回は、経鼻経管栄養法という、鼻からチューブを挿入する方法について書きます。こちらもメリット、デメリットがあります。

簡易で比較的安全な方法ですが、生活の質(QOL)は落ちます

経鼻経管栄養法は、手技が比較的簡単であるため、熟練した看護師さんで挿入することができます。注入食を流している時に、チューブを本人が鼻から抜いたりしたら、非常に重篤な事故になりかねませんが、それ以外は事故や合併症は少ない方法です。このため、口から食べられない状態になった人の栄養を確保する方法として、第1選択で実施されることが多く、もっとも多くの人が利用している方法です。

問題は鼻にいつもチューブが入っていると言う状態です。このため

  • 外観が悪く、重症度がある
  • チューブを、例えば右の鼻から入れたときに、喉の通路の左側を通るなど交差していることが多く、食物が通りにくい。もちろん交差していなくても、異物が入っているので、食物通過の妨げとなります。
  • チューブに、痰や食物が絡まって、それが後ほど唾液を飲み込む時に混じってしまい、誤嚥しやすくなる可能性も非常に高いです。この時の唾液は、汚染物と混ざっているので、綺麗な唾液を誤嚥した時よりもバイ菌が多いので、肺炎になるリスクは高くなります。
  • 私たち人間は食物を口の中から喉に送り込むとき、口を閉じることが必要なのですが、鼻からチューブをいれているので、口で呼吸することが多く、口を閉じると非常に息がしづらくなりますなので、口を少し開けたまま送り込もうとします。同様に、「ごっくん」と飲みこむときには、口をしっかり閉じるのが通常ですが、このときも口があいたままになりやすく、飲みこむ力が低下します
  • 食べる練習以外の時間も、口呼吸のために口があいたままになって、非常に口の中が乾燥しやすくなります。

このように、チューブという異物が、鼻から喉を通り胃まで入っていることで、食べる練習が非常にやりにくく、誤嚥するリスクが高くなる、口腔内が乾燥するなど多くのデメリットがあります。これらをすこしでも解決するためには、間歇的栄養法といって、注入食を注入するときに挿入して終わったら抜くという方法があります。しかし、毎回、挿入する看護師の手間もかかりますが、1日3回もチューブを抜き差しされることは、チューブの必要性を理解している人であればまだしも、理解できていない人にとっては非常に苦痛を伴うことになります。

さらに、もっとも臨床で心を痛めるのは、チューブを自分で勝手に抜かないようにと、手にミトンを常時つけて自由を奪われることです。ミトンをしてもなぜか器用に抜いてしまう人の場合は、ベット柵に手を縛るなど対策をとることも少なくはありません(これらを拘束といいます)

デメリットはあるけれども、選択するメリットもある

このように経鼻経管栄養法は、その人の生活の質を非常に落としてしまいます。しかし、あえて経鼻経管栄養法を選択するメリットも、以下の場合にはあります

  • この数週間を乗り切ってしまえば、以後は口から食べられそうと見込みがある
  • 低栄養状態によって食べる力が低下しているので、栄養状態を改善したい
  • 手術や感染症の回復過程において、合併症の予防や治癒力のために、必要栄養を確保したい

さらに最近よくあるのですが

  • 今後は胃瘻にするのか、水分だけを点滴で補いながら少量でも食べられる分だけ食べていくか(いわゆる看取り)にするのか、決定するまでの期間に使用する

こうした期間限定で使用するためには非常によい方法だと考えます。

経鼻経管栄養は、簡便なので選択されることが非常に多いのですが、病院ではこうしたメリット、デメリットを本人や家族に十分説明する時間がないのが現状です。「こんなはずではなかった」という声を、臨床だけでなく、友人や知人から聞くことは少なくありません。では、どうしたらいいのか?次回に書きたいと思います。

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