障害者の生活の困難さは、障害の重症度と何が決めるのか?〜言語聴覚士のお仕事〜

障害者の生活の困難さは、障害の重症度と何が決めるのか?〜言語聴覚士のお仕事〜

私は、病気や怪我によって障害を呈した人の、リハビリが仕事です。それでは、そもそも障害とはなんでしょうか。調べてみると障害とは、何かを遂行するときに妨げとなるもの(Wikipedia)個人的な原因や社会的な環境により、心や身体上の機能が十分に働かず、活動に制限があること(goo辞典)とされています。障害は何かができないという個人の能力について表すことが多いのですが、障害の重症度だけでは、その障害者の生活が困難であるかどうかは決まりません。

私の臨床経験で例をあげますと、中等度の高次脳機能障害と失語症を呈していましたが、1年半の療養期間を経て会社に復帰した人がいます。復帰後も、さまざまな配慮が必要でしたが、数年たった今も就労継続をしています。反対に、軽度であっても入院期間内に、会社に解雇されてしまう人も少なくありません。この違いはいったい何であるのか、今日は考えたいと思います。

障害の種類を分類してとらえたICIDH(国際障害分類)

ICIDHは、1980年WHOが提唱した概念で、障害を心身レベル、能力レベル、社会レベルと3つのレベルに分類したものです。例えば、足が麻痺して歩けない場合、

  • 「足が麻痺している」は心身レベルの障害
  • 「歩くことができない」は能力レベルの障害
  • そのことによって「復職できない」は社会レベルの障害

となります。私が言語聴覚士の養成校に通っている頃は、この分類に基づいて障害を考えると習いましたし、仕事についてからもカンファレンスなどでは、この分類に基づいて患者さんの家庭復帰や社会復帰が困難となっている問題点を整理していました。そしてリハビリでは、心身レベルの改善を第一に目指していました。なぜならICIHDの考えでは障害は一方向となっているため、心身レベルの障害を改善すれば、次に続く能力レベル、社会レベルの障害が軽減されると考えていたからです。しかし現実には、障害や重症度が同じであっても、その人が生活する環境、社会によって、その人の生活の困難さは異なっているのです。

障害を社会全体でとらえたICF国際生活機能分類

ICFは、2001年にWHOに提唱された概念です。詳細についてはこちらのサイト、ICFとは?ICFの考え方からその活用法まで、分かりやすくご紹介します!をご覧下さい。障害について、本人を含めた社会全体で総合的に考えていくもので、2001年に私は養成校に入学したのですが、当時講師の先生が、この ICFについて非常に興奮して話していたことを覚えています。ICFは、 ICIDHと異なり、障害のある人の生活に関与する因子を双方向にとらえているのが特徴です。

出展:発達ナビ

まず生活機能として心身機能、活動、参加の三要因があります。この用語自体が分かりにくいのですが、例えば

  • 「足が麻痺している」は心身機能
  • 「電車で通勤する」は、生活上の目的を持った行動なので活動
  • 「会社に出勤、復職する」が参加

となります。これが先ほどのICIDHの考え、つまり障害の分類が一方向であれば、「麻痺があるので通勤ができなくて会社に戻れない」ということになります。

しかし、ICFの考えでは、例えば通勤手段を変える、在宅ワークにするなど環境因子を整えることで、歩けなくても復職はできるとします。麻痺のある人を受け入れる会社、受け入れない会社というように、環境因子がメリットになる場合もデメリットになる場合もあります。このように考えると、同じ麻痺の程度でも、その人の生活の困難さは全く異なってくることがわかると思います。この考えは、今でこそ、私の中で定着してきましたが、慣れるまでは非常に難しいものでした。しかし、退院後の生活における問題点と改善できるものは何か、この人の生活環境で有利なものは何かなどを検討して整理をするときに非常に役に立つ考え方です。

障害を3要素でシンプルにとらえた吃音問題の立方体モデル

こちらは1960年代に、吃音の研究者であったウエンデ・ジョンソンが提唱したものです。詳細についてはこちらのサイト、吃音ってどのようなもの?をご覧ください。ジョンソンは「吃音は吃音と診断された時から生じる」という診断説を唱えた人です。この立方体モデルを養成校で習ったときに、私は非常に衝撃を受けました。吃音だけに限らず、障害の重症度というのは、本人の障害の程度と、相手の反応そして本人が障害をどう捉えるかによって変わってくるものだと解釈しました。つまり重度の障害があっても、周囲がそれをサポートする環境にあれば、本人の障害のとらえ方は良い方向に変わってきます。反対に軽度の障害であっても、周囲が全く受け入れなかったら、本人は障害を非常にマイナスに捉え、障害による生活の困難さは増してしまいます。

例えば、口腔や咽頭の麻痺によって発話が不明瞭になる障害があります。この場合、聞き手が注意深く耳を傾けたり、時間がかかりますが書字や文字盤の利用を受け入れてくれると会話は成立します。障害を持った人も、一生懸命に伝えようとするでしょう。しかし、例え障害自体が軽度であっても「何を言っているのかわからない」などと聞き手が傾聴する態度をみせないと、本人は萎縮して話すことをやめてしまい、会話は成立しません。

この立方体モデルは、私が臨床に出てから、ずっと心に留めているものです。わかりやすいので、実習生の指導にも使っています。先月、発達障害をテーマにした会でこの立方体モデルを使用して説明をしたところ、参加された方から非常にわかりやすいと感想をいただきました。こちらの図はそのうちのお一人が作ってくださいました。

 

障害者の生活の困難さは、重症度と社会環境が決める。ぜひ、一度は自分ごととして考えてほしい

障害とは、生来のもの、中途のもの、改善するもの、進行性疾患などの改善が難しいものなど様々あり、そしてほとんどの障害は、療育やリハビリで完全に改善するわけではありません。そうした人たちが生活しやすいかどうかは、環境因子に負うところが非常に大きいのです。環境因子がよければ、個人因子つまり本人の反応も改善され、障害による生活の困難さは軽減されるでしょう。

私たちはいつ何時、障害を持つことになるかわかりません。また家族や身の回りの人が障害者となるかも知れません。決して他人ごとではないのです。障害をもった人たちが生きやすい社会かどうかは、この社会が障害を受け入れる、理解があるかどうかに関わってきます。一人でも多くの人が、自分ごととして、障害を持った人が生きやすい社会について考えて欲しいと願っています。

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