高次脳機能障害者の復職支援〜言語聴覚士のお仕事〜
医療と健康、そしてリハビリの情報〜言語聴覚士というお仕事〜本日もよろしくお願いします。
私が毎月参加している「高次脳機能障害研究会」という主催者の承認制の集まりがあります。高次脳機能障害とは、また詳しく書きますが、脳卒中や交通事故などで、記憶や注意など様々な脳機能に障害をきたし、結果、社会生活や人間関係に困難さを伴う障害です。
日本ではこうした障害を呈した人の復職は30%程度、さらに失語症の方に関してはたったの10%と報告があります。そして、一度復職しても、1年以上、就労継続している割合はさらに低下します。
私はこれまでこうした人たちの就労支援に力を入れてきました。といっても、病院という枠内でできることは限られていて、自分の力量もさることながら、制度の壁をいつも感じていました。段階的に社会生活に戻れる支援が得難いことによって、無理して会社に戻るか、まったく就労の糸口がつかめないまま退職かの、両極端なことが非常に多いのです。
オーストラリア視察の報告を聞く
今回の研究会ではオーストラリアでの就労支援について報告がありました。その中の一つ
HEAD 2 WORKアチーブオーストラリアについてここでは紹介していきます。
この団体は、リバプール病院という脳損傷者を対象とする病院の一角に設置されています。ここが、まず、違います。病院と、支援機関が同じ敷地にあるのですから。
ここでは、認知の訓練(リハビリ)をするのではなく、適性を見極めて「もとの職場へ戻ることが働きやすい環境だ」という考えで、復職の支援を行います。
ここでは3ステップのプログラムが用意されています。
まずは現職に復帰するpathway1、なんとこの施設における復職率80%!なんて高い!ポイントは
- 日本では1年半が限度とされる休職期間がなく
- 最初はパートで戻って職場でリハビリするという風土がある
- 配置転換ができる、今の自分にあった仕事に変更できる
オーストラリアの企業は、仕事内容、勤務形態の個別化が進んでいるそうです。
pathway2では新しい職場を探します。60%がジョブコーチという職場に一緒に入って評価、指導などする 制度を利用して新しい仕事につきます。
pathway3は、作業所やボランンティアなどで、社会と関わっていくことを支援します。
そして、このアチーブオーストラリアは
- 人が働いて給与をもらうこと
- 一般的な生活ができること
- 金銭的基盤を持つために働くこと
をコンセプトにしており、いろいろな企業との連携を深めて、業務開拓やラジオでの宣伝などを行っているそうです。ちなみにマイクロソフト社もスポンサー。政府からの支援を受けていません。
日本との違い
障害を持っている人の支援というと、何かとお上、役所の支援ありきで考えがちなのですが、民間だけで運営していることは驚きです。もちろん利益も実績も出さなければなりません。
そして、オーストラリアという国の「リハビリしつつ仕事に戻れる風土」は素晴らしいと思います。高次脳機能障害だけではないですが、なんでも「やらないと衰える」のは自然なことで「やっていくうちにうまくなる」ものなのです。このあたり、社会全体で多様性を受け入れるようになってくれないかと、切に願います。
日本で企業の受け入れがすすまない要因の一つは「理解のなさ」「情報の乏しさ」にあると私は考えます。高次脳機能障害を呈したその人が「何ができて」「何が苦手で’」「どうしたらいいのか」そこが理解できているかどうかで、受け入れる側の負担は激減するのではないかと思っています。なので、私は入院初期から、家族や本人を通じて会社に連絡を密にして頂き、定期的に情報提供していくこともリハビリ職の大事な仕事だと思っています。
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