食べたい!を支援する、小山珠美先生の講演〜言語聴覚士というお仕事〜
医療と健康、そしてリハビリの情報〜言語聴覚士というお仕事〜本日もよろしくお願いします
私はこの数年前「リハビリ栄養研究会」に入会しました。リハビリだけで改善する患者さんは、ほとんどいなくて、常に全身状態の改善があってこそなのですが、「投薬や処置」だけでなく「栄養状態」を含めて考えていくことを、この研究会で学びました。
そして、何より先駆的な活動をされているので、会長の若林先生やたくさんの講師の先生方だけでなく、参加者がと〜っても「熱い」のです。なので、いつも明日の臨床に向かう元気を頂いてます。
さて、先日、広島で本研究会の学術大会がありました。この中で、私が最も強く共感し感動したのが、看護師である小山珠美先生の講演でした。何度、心から拍手を送ったことでしょう。
以下、内容をまとめたいと思います。嚥下障害者やその家族さんと関わる多くの職員、地域の方へ何か気づきになると嬉しいです。正解はないと思いますが、私たちが考え続けることが大事だと思います。
高齢化が進んで、幸せな社会になったと思いますか?
この質問から講演は始まりました。今や日本では平均寿命男性80歳、女性87歳の超高齢化社会。でも、会場ではほとんど手が上がりませんでした。そうです、健康寿命はもっと短くて、何年間も介護を受けているのが実態。その介護生活が、快適でなかったら?望んでもいない延命処置をされて生きているのであれば?
そんなことを考えて、手をあげるのを躊躇された方がほとんどではないでしょうか。
そして、生活の質(QOL)を下げる一つ、重要な一つは、食べることができなくなる、食べてはいけないと言われる「禁食」です。
嚥下障害についてはこちらにまとめましたが、高齢者は「身体の生理的変化」「脳卒中、変性疾患など脳の病気によるもの」「認知症」など複合的な原因で、食べる機能、つまり嚥下機能が低下してしまいます。
その結果、食べたものが胃ではなく肺に入る「誤嚥」からさらに「誤嚥性肺炎」となったり、量がたりなくて「低栄養、脱水」になってしまったりして、より身体機能が低下してしまい、さらに、嚥下障害が重度化するという負のスパイラルに陥る傾向があります。
結果、「食べたら危ない!」ということで、胃や鼻にチューブを入れてそこから栄養剤を流す(経管栄養)、口から食べることを禁止される事態「禁食」になってしまいます。
安易な禁食について、本気で考えたい。食べなければ安全ですか?
私が最も共感したのは、小山先生のこの発言
昔は、経管栄養なんてあまりなかったのです。だから、口から食べてもらうことしかできなかった。だから、なんとかして安全に食べられるように、看護師も努力したものです。でも、昨今は、安全ばかり言われて、食べさせない傾向が強い
私も数え切れないほどの重度の嚥下障害の方と関わってきましたが、そうです、まったく食べられない人、一口でも食べたら肺炎になる人って、ほとんどいません!こちらが知識と技術を持っていれば、数口は食べられる方がほとんどです(看取りの患者さんの経験もこちら)
そして、実は、一口でも安全なもの(例えばお茶ゼリーなど)を摂取している方が、より「安全」なのです。なぜなら、嚥下運動というのは、たくさんの筋肉が見事に協調して行うもので、他の運動で代償できません。なので、食べないと機能が低下してしまって、結局、唾液などをどんどん「誤嚥」してしまい、そこから肺炎に至ることが少なくないのです。
この表を見てください。お口の細菌数は、食事のたびに減るのです。唾液が出て殺菌、食物と一緒に飲み込んで胃酸で殺菌という素晴らしい防衛作用が備わっているのです。就寝中は30倍になるそうです。つまり「禁食」の人は、ず〜っとこの状態です。天然の殺菌効果が発揮できません。
出典:千葉県がんセンター
「食べられない」ではなくて、「食べられない」と安易に決めつけて「食べてもらえる」ための努力や工夫を怠っていないか?一度、振り返って考えたいと思います。
「退院が決まっているから、やめておこう」とか「この前、発熱したから食べたらだめ(誤嚥によるものか精査ないまま)」こういうことがまかり通ってませんか?
口は命の源!
「口は命の源」この言葉、何度も強調されていました。産まれてからず〜っと私たちは、食物を食べることで生きるエネルギーを獲得してきました。「禁食」になることで、生命力も認知機能も低下していきます。
- 刺激もなく、生活のリズムもつきにくく、覚醒レベルが下がって終始、うつらうつらと傾眠になります。
- 口腔につながる神経領域は脳の非常に広い部分を占めていて、そこを使わないことで無表情になったり、脳の活動も低下します。
- 口腔の筋力も低下するので、声も小さくなるし会話も減って、さらに口腔機能が低下します。
- 経管を抜くといって、ミトンをされたり抑制といって手をつながれたりします。
- 食べていたら座らせたり起こしたりしますが、食べない人は、寝たきり、お口の掃除もなおざりにされがちです(最近は減っていると思いますが)
むやみやたらに「食べさせる」のも危ないですが、「禁食」によってどれだけのデメリットがあるのか、もう一度考えたいと思います。
最後に、講演でのすばらしいお言葉、心したいと思います。
相手に自分を置き換える想像力、マインド、問題解決能力と実践力
これらが成果をうみます。
不足を補い、どこを伸ばせばいいか、誰に頼めばいいのか?を考えていくこと
これらの視点でいつも臨床に向かうこと
先生の書籍はこちら。すばらしい知恵が詰まっています。
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