会話のフォーマットを決めてみる~失語症と高次脳機能障害の言語リハビリ~言語聴覚士のお仕事
失語症や高次脳機能障害がある人からよく聞く、コミュニケーションに関するお悩みがこちら。
「私の返答が、短すぎて話が続かない」または、「長くなりすぎて相手が引いてしまう」
つまり相手と会話のキャッチボールが続かないというお悩みです。
多分、同じ悩みの方はたくさんいらっしゃると思います。しかし、失語症・高次脳機能障害の人は「人生の途中である日突然、これまでできていたことが難しくなった」中途障害ですから、以前の私ならできたと悩むわけです。そして、少しでも戻りたいなぁと、言語リハビリをしたり、自分で試行錯誤したりします。
ワーキングメモリーが小さくなると
今日は、発話が短すぎて会話が続かないA君について。彼はワーキングメモリー、記憶の容量が小さくなっているため、いくつかの情報を同時に置いておくことが難しくなりました。
私たちは、ある情報を相手に伝えるときは、必要な項目を頭の中に置き、それを適切な順序で組み立てていきます。例えば
「昨日、マンションの前で、車と自転車で出会いがしらの衝突事故があってね。自転車に乗っていた学生さんが軽いけがをしたの。そこは以前から危険だなって話が出ていて、カーブミラーの設置をしようと組合でも話が出ていたんだよね。とうとう衝突事故が起こってしまった。たまたまケガは軽傷だったから良かったけど。これをきっかけに早く対策をとってもらうよう、組合に言おうと思ってるの」
ま、こんな感じですね。
ところがA君の場合だと
S:今週、何かありましたか?
A:事故がありました
S:どこで?A君は巻き込まれたの?
A:ちがいます。スーパーの前です
S:危ないところ?
A:はい。軽いけがをした
ワーキングメモリーが少なくて必要な情報をすべて頭の中に浮かべるのではなく、思いついた単語をぽんぽんと相手に話をしていますね。これでは、5W1Hにそって、一つ一つの項目を相手が質問して聞き出さないと、一体何があったのか伝わりません。
また、遂行機能の低下により、「なぜなら〜だから」という論理立てて話をするのが難しくなっています。
フォーマットに沿って練習する
A君の場合、交通事故のあと、高次脳機能障害になりました。しかし、簡単な会話ができるということで、リハビリを受けることがなかったそうです。こうしたコミュニケーション障害がある人にとって、最大の問題は、どうして会話が続かないのかという原因がわからないことです。さらにどのような練習をしたらいいのか方法がわからない、そしてどういう代償手段があるのかわからないと続き、回復の機会を逃してしまいますね。
私がおすすめするのは、
フォーマットにそって話をすることです。
1 トピックは何か
2 これまでの経緯
3 何が問題か
4 どう思っているか←ここが一番の難関なので、初めは1~3まで話をしてもらって、4は対話形式で引き出しても良いと思います。
言語療法での例をお伝えします
では、これにそってニュースの説明をしてもらいましょう。
手元のノートに「いつ、どこで、だれが、何を」と項目をピックアップ、「伝えたいこと、これまでの流れ、何が問題か」を話す順序もメモしてもらいます。それぞれの項目、全てについて話をしてくださいねと伝え、少し考える時間を設けてスタート‼️
A:オミクロン株がはやっている。感染者が増えています。去年に、南アフリカで発生した。人が旅行とか、出張とか、そんなので世界中に広がって、日本でも流行りだしました。市中感染が増えて、蔓延防止とかでた。経済がまた止まって、失業者とか、就職が難しくなって。自殺者とかが増えてる。
s:オッケー!
言語聴覚士は、発話を引き出す
では次に難関の「なぜ」
S:なるほど。では何が問題だと思ってる?
A:不景気になって、自殺者が増える。自殺はよくない。厚労省とかLINEで相談できるところがある。
同じニュースを聞いても4のところは、人によって違ってきます。私など医療関係者は「あ、また保健師や看護師が大変だ。医療機関もつかな・・」と思いますし
飲食店の経営者ならすぐに「規制はどうなる?営業どうしよう?」でしょうし。
この4があるから、相手と話が繋がっていくのですが、事実を話すのと違って自分の意見や思考は自分で言語化してまとめる必要があるので、難しいですね。レベルが一つ上がります。まずは1~3まで一人で言えるように練習をして、4は対話で引き出してみると良いと思います。
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